4. 運命の出会い
『ファッショナブル』の毛筆体が輝くお母さんのクソTに案内され、俺と設楽は設楽宮殿のリビングへと、足を踏み入れた。
「お二人はそこで少しお話でもしていて下さい。今、お茶を準備いたします」
「了解です。ありがとうございます」
「ありがとうお母さん」
お茶の準備に向かったのだろうか……お母さんが着るクソTは、そう言って俺たちに背を向けた後、ゆったりとリビングから姿を消した。
俺と設楽が残されたリビングは広く、サイドボードの上に家族写真がたくさん並んでいる。自然とそれらに目が行き、俺はそのうちの一枚を手に取った。
「これは……」
「ああ、これは私が幼稚園児の頃の写真ですね。まだ兵庫にいた頃です」
「……」
「分かるとは思いますが、こちらが母で、こちらが父です」
言われなくても分かる。今の設楽に瓜二つの仏頂面の女性と、顔の作り自体が笑顔のような優しそうな男性に挟まれた、幼児ながらすでに人を射殺す目線でカメラを睨みつける、仏頂面の幼女……これが在りし日の設楽一家か……。
お母さんは本当に設楽そっくりだ。そしてこの幼い設楽も、今の設楽をそのまま小さくしたような、そんな感じだ。この頃の子供となるとけっこう自然な笑顔を浮かべるはずなのだが……こんなに小さい頃から、設楽は設楽だったらしい。その仏頂面は、幼女にしてすでに係長の威厳を漂わせている。
「お前は、この頃からすでにお前だったんだな……」
「はぁ……?」
俺の意味不明な感想を聞いて、設楽は頭の上にはてなマークを浮かべていた。まぁいい。我ながら、変な感想を言ってしまったと思うし。
手に取った設楽一家の写真をサイドボードの上に戻し、俺達はリビングの真ん中に置いてある二人がけのソファに腰掛けた。その前には木製の中々に重厚なテーブル。そして周囲を囲むように高価そうなソファが並べてある。
そしてそのまま、待つこと数分。
「お待たせしてしまって申し訳ない」
優しく、穏やかな男性の声が聞こえ、中々にナイスミドルな老紳士がリビングに入ってきた。背筋がしっかりと伸びた男性のその手には、急須と湯呑み、そしてお茶請けのきんつばが乗っかったお盆がある。
「お父さん。ご無沙汰してます」
「やぁ薫。元気そうで何よりだ」
「お父さんこそ、お変わりなく」
「ああ。母さんともども元気だよ」
設楽が立ち上がり、その老紳士と言葉をかわす。ジーパンに黒の長袖シャツ、そして黒いエプロンをつけたその老紳士は、設楽を見て、とてもうれしそうな笑顔を見せていた。
続いて……
「やぁ。きみが渡部くんだね?」
「は、はいッ! 渡部、正嗣ともうします!!」
「はっはっはっ……薫の父です。無理かもしれんが、まぁ緊張せず、くつろいでくれたまえ」
老紳士は俺にも挨拶をしてくれ、優しい気遣いを見せてくれた。そうか。この人が、設楽のお父さんか……
「まぁ立ち話もなんだ。まずはソファに座ってくれ」
「はいッ! ありがとうごじゃいまふッ!」
「ぶふっ……噛み噛みじゃないか渡部くん」
「申し訳ございませんお父さん」
「別にきみが謝ることではないんだよ薫……」
「も、申し訳、ございませぬッ!」
「渡部くんも、一体いつの時代からタイムスリップしてきたんだ……まぁ座りなさい」
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