ハーメルン
ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト
第1話
1
わたしは待ち続けていた。普通なわたしの日常に、突然訪れる奇跡を。
何かに夢中になりたくて――
何かに全力になりたくて――
脇目もふらずに走りたくて――
でも何をやっていいか分からなくて、
燻
(
くすぶ
)
っていたわたしの全てを吹き飛ばし、舞い降りてくるものを。
2
壁と天井を覆うコンクリートに、ゆっくりとしたリズムの足音が反響する。ジュラルミン合金製の靴底が150キログラムもの総重量を床に叩き付けているが、その鎧を全身にまとう当人にとって、重さはさほど苦ではなかった。自分の体重を超える武装には、筋力補正も組み込まれている。100メートルの距離を10秒で走ることも可能だ。
大丈夫。訓練と演習通りにやればいい。
マスクの奥で、装着員は深く深呼吸した。
『用意は良い?
氷川
(
ひかわ
)
君』
マスクに搭載されたスピーカーから女性の声が聞こえてくる。「はい」と装着員は応じた。大丈夫だ、と再び深呼吸する。ただ警視庁の上層部がモニタリングに同席しているだけ。普段の演習との違いはそれだけだ。指揮を執るのは
小沢澄子
(
おざわすみこ
)
。オペレーターは
尾室隆弘
(
おむろたかひろ
)
。そして装着員は自分。何も変わりはない。
『G3
戦術演習
(
マヌーバー
)
、開始』
小沢が告げると、演習ルームの奥に設置されたモノリスが警告のブザーを鳴らす。続けてその窓から黒いハンドボールほどの鉄球が無数に飛び出してくる。まっすぐ向かってきたそれらを紙一重で避けると、背後に衝突する音が幾重にも響く。床に落下する音は聞こえなかった。砲丸よりも重い鉄球だ。コンクリートの壁では衝撃に耐えきれず、球を埋めさせてしまっているのだろう。以前、演習後に何気なく鉄球が埋まった壁を見たときは、まるで無数の目に睨まれているようで少し怖気づいた。
続けて飛び出してきた鉄球も全て避けてみせたが、最後の1球のみは避け切れず、鋼鉄の胸部装甲に直撃する。スピーカーから中年男性特有の、しわがれかけた「おお……」という声が漏れる。この1球は敢えて避けなかった。回避はスーツではなく、スーツを動かす装着員の動体視力に左右されるからだ。だからスーツの耐久性を示すため、1撃のみは許した。
胸に抱えた鉄球から手を放す。ごとり、と床に鈍い音を立てて落ちると同時、再び投球機から鉄球が飛んでくる。右手に携えた拳銃を構え、トリガーを引く。すぐ目の前まで迫っていた鉄球は木端微塵となり、辺りに欠片をまき散らす。続けざまに飛び出す鉄球の数だけトリガーを引くと、銃口から放たれた弾丸は一寸の狂いもなく全て中心を撃ち抜き砕いていく。
この精密な射撃もスーツの補正によるものだ。目標をマスクのディスプレイにてポインターが補足し、AIが腕部ユニットに理想的な構えを促してくれる。装着員はただトリガーを引くだけでいい。普段の射撃訓練がまるで意味をなしていないようで複雑ではあるが、生身の射撃ではどうしても誤差が生じてしまう。
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