ハーメルン
ラブライブ!サンシャイン‼︎ feat.仮面ライダーアギト
第4話
1
『実はお見せしたいものがあるんです。主人と息子が殺された事と、関係があるかどうかは分からないんですけど』
通話越しの佐伯安江の声は、少し震えていたように誠は記憶している。連絡を受けたのは夕刻で、過去に類似した事件がないか署のデータベースをチェックしている時だった。収穫が無くて諦めようとした矢先での連絡は、迷うことなく誠を快諾させた。
すぐに準備をして待ち合わせの公園に向かったのだが、到着した頃には既に陽が暮れていた。夕陽が空を茜に染める時間は短い。まだ西には茜の残滓が残っているが、あと10分程度で完全に夜の闇を映すだろう。数少ない遊具で遊んでいたであろう子供たちも家に帰り、静まり返った公園はどこか不気味だった。植えられた桜の樹は花を咲かせているが、朧気な街頭に照らされた樹木は公園に現れる魔物のように見えてくる。それほど公園は広くもなく、いくら暗くても安江はすぐに見つかるだろう。ひとまず敷地を一周してみたのだが、人気がまったくない。まだ安江は来ていないのか。
しばらく待ってみよう。そう思い公園に設置されている唯一のベンチへと歩く誠の視線が、散った薄紅色の花弁が積もる地面の一画で留まる。花弁を敷物のように、女性もののハンドバッグが鎮座していた。誠は駆け寄りバッグを拾い上げる。
「佐伯さん」
嫌な予感がして、誠は夜へ染まろうとしている周囲に呼びかける。応える者はなく、誠の声は宵闇のなかへと吸い込まれ、彼方へと消えていく。誠は視線をやや上へと移す。静かに、動くことなく立ち並ぶ樹木はどれも空に向かって枝を伸ばしている。誠の視線が止まった先で、1本だけ枝がだらりと垂れ下がっている。誠は目を凝らす。
ぶらりと下がったもの。それは枝ではなかった。
春物のコートに袖を通した、人間の腕だった。
「佐伯さん!」
驚愕こそしたが、誠の意識は即座に警戒へと移った。犯人がまだ近くにいるかもしれない。ジャケットの内ポケットからM1917リボルバーを取り出し、周囲に険しい視線を這わす。
安江の埋まった樹の根本で、背の低い常緑樹がかさかさ、と音を立てた。駆け寄り銃口を向けようとしたとき、横から何かがぶつかってくる。不意打ちに対処しきれず誠は地面に身を伏した。すぐに起き上がろうとしたのだが、上体を起こしたところで誠は視界に入った「それ」に目を剥き、呼吸するのも忘れてしまう。
「それ」は人のようであって、獣のようでもあった。
一瞬は被り物だと思った。犯罪者が雑貨屋で売っているマスクで顔を隠すのはよくあることだ。でも目の前にいるジャガーの顔をした「それ」はゴムやシリコンでは出せない肉の質感が見て取れる。被り物とするなら、本物のジャガーの皮を被っているようだ。
「貴様の仕業か!」
ようやく体の緊張が解けて、誠は声を飛ばす。人の言語が理解できないのか否か、「それ」は何も答えず獣の呻きを漏らしながら誠の喉元を人と同じ形の手で掴んでくる。片手で首を持ち上げられながら、誠は冷静さを失わず「それ」を分析する。体は人間と同じだ。盛り上がった筋肉はダビデ像のような理想的な肉体美を湛えている。
「それ」は無造作に誠を投げ飛ばした。体重が60キロ以上ある誠の体を片手で。受け身も取れず無様に着地する誠には一瞥もくれず、「それ」は踵を返して暗闇の中へと潜り込んでいく。そこで誠はようやく、夕陽の残滓すらも消えて完全な夜が訪れたことに気付いた。
懐からスマートフォンを取り出し、素早く通話モードにして耳に押し当てる。すぐに小沢の声が聞こえた。
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