ハーメルン
豊かなスローライフを目指して
プロローグ

 
 二度目の人生はのんびり過ごすことに決めた。
 名族に生まれても過信せず、後々に楽ができるようにと幼い頃から勉学にも励んだ。
 私塾の同期に華琳(曹操)と麗羽(袁紹)が居るというサプライズこそあったが、なんだかんだ真名を交わし合うほど親しくもなった。
 私塾を卒業しては三人揃って郎官(役人)となり、煩わしい宮中の権力争いをスルーしつつ、やがて月日は経ち、三人揃って太守の任に就く。華琳は兗州へ。麗羽は冀州へ。そして僕は荊州へ。

「────麗羽。貴女とはいずれ、決着をつけることになるでしょうね」
「望むところですわ。わたくし、チンチクリンの華琳さんに負ける気など毛頭ありませんの!」

 馬が合わないのか華琳と麗羽は私塾からずっと、何かにつけて言い争うことが多かった。
 後の歴史が証明しているように、二人は争う宿命なのだろうか。赴任する直前に集まった際には宣戦布告のようなことを言い合っていた。
 まあ、二人が雌雄を決する官渡の戦いは二十年近く先の話だ。当面は穏やかな日々を過ごせることだろう。宣戦布告が終わった後には、僕らは互いに健闘を祈り合い、それぞれの任地へと赴く。

「よーし。地方へ出ればこっちのもんだ!」

 僕が治める任地は荊州の南郡。
 程良く都から離れ、且つ肥沃な土地である南郡はスローライフを送るには絶好の場所だ。
 そして頭で今一度、歴史の年表を思い返す。今から約三年後に黄巾の乱が起こり、その五年後に反董卓連合。そこから群雄割拠となって、そのさらに十年後に官渡の戦いが起こったはず。
 若干のズレはあるかもしれないが、大よそこんなところだろう。黄巾の乱が起こるまでに領内をしっかり纏められれば、後は流れでなんとでもなるはず。中央のゴタゴタは極力関わらない方向で進めていけばいい。僕はそう考え、末永く豊かな生活を送るために領内の内政に尽力した。

「────うん。ぶっちゃけ色々と心配ではあったが問題なさそうだな。順調順調」

 その結果、僕の治める南郡は中々に栄えた。
 武官こそ少ないが文官の層は極めて厚く、幸運なことに多くの優れた人材に恵まれた。
 華琳や麗羽といった、この時代を代表する人物の性別がなぜか反転していたりと、初っ端から歴史通りに進むか怪しい気配こそあったが、少なくとも黄巾の乱が起こるまでは平穏だった。
 だから僕はこのまま歴史通りに進むものだと信じて疑わなかった。歴史を知るアドバンテージを活かしつつ、華琳や麗羽と知己であるという最大級のコネを活かせば、激動の時代を乗り切るのも余裕。そう信じて疑っていなかったが────。

「────え、ちょっと待って。黄巾の乱が終わったばっかなのに、連合を結成するってマジ?」
「────え、ちょっと待って。連合戦が終わったばっかりなのに、華琳と麗羽が戦うってマジ?いやいや流石に早すぎる────って、決戦の地は官渡だって?おお、マジじゃないか…………」

 時代の流れは黄巾の乱勃発を機に、僕の予想を遥かに越えて急速に進んでいった。










──私と轡を並べる栄誉を与えるわ。麗羽のバカを叩くのに協力しなさい。
──小生意気な華琳さんをギャフンと言わせたいので華麗に背を討って下さいまし。
──袁術ちゃんから独立するけど静観しててね。独立後は不可侵同盟を結べたら嬉しいわ。

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