1: ラナー、蒼の薔薇に依頼をする
「そ、そんな! モモン様なら、きっとヤルダバオトを完膚なきまでに滅ぼしてくださったに違いない!!」
「まあまあ、イビルアイ落ち着けよ。いかに凄い奴だといっても漆黒のモモンだって人間なんだ。奴だって状況が悪化すれば、もしものことがあってもおかしくないんだぞ?」
「そ、それは……確かに……そうなんだが……」
イビルアイはバツが悪そうな顔をして黙り込んだ。
「ところで、ラナー。この話を単に教えてくれるためだけに私達を呼んだんじゃないわよね?」
ラキュースは、二人のやり取りを眺めつつ、ラナーに問いかける。
「ええ、そうなんです。これまでは、先日の王都での戦いで復活されたガガーランさん達の体力が回復していないということもあって、魔導国に関してはあまり深入りせずに、様子見をしていました。王国は、正直、魔導国と友好関係にあるとは言い難いですし。でも、今回の一件は、魔導国に人を送るのにちょうど良い口実になると思いませんか? ですので、現在の魔導国の状況を、蒼の薔薇の皆さんで詳しく調査してきて欲しいんです」
「それは、エ・ランテルへ行くということか!?」
「おい、イビルアイ、ちょっと落ち着け!」
「その通りです。本当なら、今回のような場合、王国の正規の使者として、兄か私が魔導国に赴き、魔導王陛下宛のお見舞いの品をお贈りするのが筋でしょう。しかし、正直いって、今の王国にはそのような体力はありませんし、王国の国民感情の問題もあります」
「それはそうでしょうね……。では、その代わりに私達を、ということかしら?」
「はい。王国からの非公式の使者として、蒼の薔薇の皆さんを派遣することで、双方の体面を保ちつつ、魔導国の実態を知るのが目的です。それで、僅かではありますが、私個人の名前で心ばかりの品と魔導王陛下宛の親書を用意しました。これを魔導国の宰相であるアルベド様に届けてほしいのです」
そういうと、ラナーは鍵のかかった引き出しから美しい意匠の小さな箱と、ラナーの封印が押された手紙を机の上に置く。
「これは父や兄にも既に同意をとってありますので、安心してくださいね。あと、少しですけど報酬もお出しします」
「なるほど。アルベド様というと、以前魔導国から王国に使者としていらした方よね? 私は直接お会いしてはいないけれど、非常に美しい女性だとか?」
「そうですね。私は何度かお話させていただきましたが、とてもお美しくてお優しい方です。きっと皆さんにも快くお会いくださると思います」
ラナーは無邪気な笑顔で答えた。
「わかりました。それなら問題は特になさそうね。どう? 皆には異論はある?」
ラキュースは他のメンバーの顔を見回す。
「いいと思う」
「同じく」
「あぁ、任せてくれ」
「も、もも、もちろん、行くに決まっているだろう!!」
「全員賛成ね。では、この件は蒼の薔薇でお引き受けします。こちらは大切にお預かりしていきますね」
ラキュースはそれらを丁寧に布で包むと慎重に懐にしまい込む。
「皆さんなら問題ないと思いますが、どうかお気をつけていってらしてください」
ラナーはにこやかに微笑んだ。
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