2: 王国の暗雲
「冗談だよ、本気にすんな」
必死になって抗議するイビルアイに、ガガーランは豪快な笑い声をあげると背中を思い切り叩き、ちょっと拗ねたようにイビルアイはそっぽを向いた。
「……全く、いつもいつもからかって……、もう、皆もいい加減忘れてくれればいいのに……」
苦虫を噛み潰したように呟くイビルアイの様子は、それでも、そのからかいを満更でもなく思っているように見え、ほんの一時ではあるが、それぞれに重苦しい物を抱えていた面々は気分が明るくなるように感じる。
「イビルアイを見習って、私もいい加減いい人を作らないとね。いつまでもこの『無垢なる白雪』を装備できるのも考えものだわ……」
「鬼リーダーは選り好みしすぎ。もっと性別も広く捉えるべき」
「年齢も大事。男の子は素晴らしい」
「やっぱ、童貞だよなぁ!」
そんなラキュースを揶揄する声が次々にかけられる。
「こっちは真剣に悩んでるのよ!? はぁ……イビルアイの気持ちが少しわかったわ……」
「そうだろう!? やっとわかってくれたか、ラキュース。ほんと酷い奴らだよな!?」
恋愛経験値が妙に高い三人組に太刀打ちできない乙女二人は、珍しく手を取り合って三人を睨みつけた。
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エ・ランテルでの執務を終えた後、アルベドとデミウルゴスから重要な案件について相談したいと連絡を受けていたアインズは、エ・ランテルの旧都市長の館からナザリック第九階層の自室に帰還していた。
約束の時間になると、部屋の扉をノックする音が聞こえ、インクリメントの取次でアルベドとデミウルゴスが入室してきた。
アルベドとデミウルゴスはアインズの前で一礼すると、手に持ってきた書類をインクリメントが持ってきた盆の上に載せ、ほぼ同時にその場に跪いた。インクリメントがその書類をアインズの手元まで持ってくる。アインズは、この手順にうんざりしながら、その書類を手に取り、表題を読むと中身を少しだけめくってみる。
「二人とも、立つがいい」
アインズの許可でアルベドとデミウルゴスは美しい所作で立ち上がり、恭しく頭を下げた。
「これは……、王国の件だな?」
「はい、アインズ様。これまで長い時間をかけ、果実が腐って自然に落ちる時期をはかってまいりましたが、そろそろ収穫の時期かと存じます。そのため、かねてよりデミウルゴスと共に練っておりました、王国に対する最終作戦を実行するご許可を頂きに参りました」
アルベドが、穏やかな微笑みを浮かべながらアインズに告げた。
「ふむ、なるほど……。ついに、王国も潮時ということか……」
それらしいことを言いつつ、真面目に読んでいる振りをしながらアインズは書類をめくった。
(うーん、なんだこりゃ。またよくわからない作戦計画書を作ってきたな……。頭いい奴はこれで理解できるんだろうか?)
アインズは、読み終えるのがあまり早くなりすぎないように気をつけながら、書類に目を通した。しかし、今いち要点が理解できない。なにしろ、今回の作戦は、実際に戦闘をするわけではなく、謀略がメインになっているので、アインズとしてはかなり苦手な部類なのだ。恐らく、ぷにっと萌えなら、目を輝かせて読んだのだろうが、自分の頭では正直理解の範疇外だ。しかしながら、信頼する二人の守護者相手にそんなことを言うわけにはいかず、わかった風を装いつつ支配者としての威厳を崩さない程度に、なんとかもう少し詳しく説明してもらおうと試みることにした。
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