ハーメルン
イビルアイが仮面を外すとき
3: 小さな希望

 その日も朝から暗い雲が空を覆い、今にも雨が降ってきそうだった。馬車とはいえ、遠出をするにはあまり嬉しくない天気だ。

 王家の紋が入った昨日よりも大型の御者付き馬車に、蒼の薔薇とクライム、ラナーが乗り込む。今回は遠出ということで、メイドが三人ラナーの世話役として少し小型の馬車で同行し、馬に乗った騎士も四人付いている。

「さてと、ラナー。そろそろ、今回の遠出の目的を教えてくれてもいいんじゃないかしら?」

 馬車が王都の門を抜け、しばらく舗装されていない街道を進んだ頃、ラキュースが口火を切る。何しろ、ラナーは、詳しい話は馬車の中でといったきり、城では行き先の説明などを全くしてくれなかったのだ。もっとも、ラナーの周りには常にスパイ役を兼ねたメイド達がいるのだから無理もない。それだけ今回の件は貴族たちには知られたくない用事ということなのだろう。

「そうですね。ここなら誰かが聞いているということもないでしょうから……。実は、お兄様にレエブン候の説得を頼まれたのです。流石に、今お兄様が王都を離れるわけにはいきませんし、この状況下でレエブン候のお力添えを頂けなければ、王国はいつ終わりを迎えてもおかしくはありません。しかし、今派閥を牛耳っている貴族達にとってはレエブン候の政務復帰は面白くないことでしょう。ですから、城の中ではお話しすることができなかったのです」

 珍しく真面目な顔をしてラナーは答えた。

「なるほど。それは私も同意だな。あの馬鹿貴族共をなんとか抑えるにしても、レエブン候がいなければどうにもならんだろうし、連中に邪魔されれば上手くいくものもいかなくなるだろうしな」
「全くだわね。同じ貴族として忸怩たる思いだけれど、無能な貴族を粛清した帝国の英断は王国も見習っていいと私ですら思ってしまうもの。魔導国のように最初から貴族なんていなければ、王国もここまで酷いことにはなっていなかったかもしれないわね」

 イビルアイとラキュースの言葉に他の面々も同意したのだろう。馬車の中に苦笑が洩れた。

「そうすると今回の目的地はエ・レエブルってことか? おとなしくレエブン候も首を縦に振ってくれればいいんだが、これまでザナック王子だって何度も打診はしていたんだろう? それで戻ってくるっていうかねぇ?」

 ガガーランの疑問に、ラナーも同意する。

「ええ、お兄様もそれは懸念していました。しかし、少しでも努力しないわけにはいきませんから。王国の未来の為ですもの。それにあのお優しいレエブン候のこと。きっと今の王国の現状は憂いていらっしゃるはず。だからこそ、私が行くんです。駄目でもやってみなければ未来は変わりませんから!」
 ラナーは重苦しい雰囲気を吹き飛ばすかのように、明るく微笑んだ。

「そうね。確かにやってみなければ何も変わらないわ。ラナー応援してるわよ。頑張ってね」
「はい! 私にできることはこのくらいですから」

 可愛らしいパンチポーズを取るラナーに、蒼の薔薇もクライムも励まされた気分になった。このまさに小さな希望とも言うべき姫も、祖国である王国もなんとしても守らなければ……。ラナーの微笑みにはそんな風に思わされる独特の魅力があるのだ。

(本当に、この方こそ王国の至宝である『黄金』。そして、畏れ多くも自分の愛する――)

 クライムは自分には手の届かない眩しいものが目の前にあるかのようにラナーを見つめる。そして、その視線に気がついたのか、ラナーがクライムに微笑み返す。

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