ハーメルン
イビルアイが仮面を外すとき
6: 蒼の薔薇、王都を走る

 王都では暴徒の数が更に膨れ上がっていた。街のいたる所で激しい火の手が上がり、それが更に近隣の建物に燃え移る。しかも、兵士達が火を消そうとしても暴徒が妨害するため、まともな消火活動すら行うことが出来ない。

 最初にターゲットになっていたのは、高級住宅街の中でも貴族の館と思われるものだけだったが、貴族の館は守りが固く、火を着けようとする者は、館を守ろうとする貴族子飼いの兵士によって容赦なく殺された。それに怒り狂った民衆は、抵抗する館の門の前にバリケードを作って逃げられないようにした上で、数の暴力で石や油や松明を投げ込む。

 更に時間が経つにつれ、暴徒の勢いは増し、少しでも豊かな暮らしをしていそうな屋敷であれば、貴族かどうかに関わらず、手当たり次第に押し入り、残っている家人を踏みにじり物資を強奪している。それを抑えようと王都の衛士達や兵士達が、可能な限り無傷で捕縛しようとするものの、棒や松明を振り回す暴徒相手では出来ることが限られ、暴徒にも兵士達にも死傷者が増え始めた。そしてその結果、民衆は自分達を弾圧する兵士、ひいてはその後ろにいる王や貴族への怒りを募らせ、より暴徒が増えるという悪循環を起こしている。

 恐ろしい悲鳴と怒号が街中を覆い尽くしていた。そんな騒動の最中、多くの貴族達はなんとか館から避難し、王城に逃げ込もうと躍起になる者が出始めた。

 六大貴族であるペスペア侯もその一人だったが、館の裏門から馬車で逃げ出そうとしているところを暴徒に襲われ、馬車から引きずり出された。ペスペア侯夫妻は命乞いをしたが、そのまま暴徒に滅多打ちにされて殺され、遺体はその場に打ち捨てられた。

 騒然とするペスペア侯の屋敷に、襲撃者達はそのままなだれ込み、館の中にある貴重品や食料などを奪うと、家の中から火を放つ。

 王都は次第に地獄絵図の様相を呈しつつあった。


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 ヴァランシア宮殿には、既に多くの貴族が集まっていた。

 レエブン候が宮廷会議の招集をするよりも先に、大半の貴族は命からがらロ・レンテ城に逃げ込んできているか、王都から脱出して領地に逃げ帰っており、未だ王都に残っている貴族を招集すること自体はそれほど難しくはなかったのだ。

 しかし――。

 本来この場には国王であるランポッサ三世、六大貴族及び有力貴族が集まるはずだった。

 だが、今この場にいるのは、ランポッサ三世ではなく、その代理であるザナック第二王子。そして、六大貴族では、大虐殺で戦死した前ボウロロープ侯の家督を継いだばかりの長男も、ブルムラシュー侯の姿もなく、かろうじてウロヴァーナ辺境伯、リットン伯、レエブン侯のみが集まっている。その他の有力貴族も大半は欠席で、残りは件の『馬鹿派閥』に属する貴族達が下品な声を立てて笑い合っているだけだ。

 ザナックは、馬鹿どもを見ただけで胃がむかつき吐き気を覚えるが、今は相手にしているだけ時間の無駄というものだ。

 先程報告が入ったペスペア候死去の知らせに、ザナックとレエブン候以外は初めてことの重大さを認識したようだ。

「まさか、ペスペア候までもがお亡くなりになってしまわれるとは……」
 ウロヴァーナ辺境伯が蒼白な顔で呟く。

「発見した衛士がペスペア候夫妻の御遺体の回収には成功したものの、損傷が激しい為、蒼の薔薇のラキュース殿の話では蘇生は難しいかもしれないということだ」

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