ハーメルン
イビルアイが仮面を外すとき
蒼の薔薇、新たなる旅立ち(三)

 鏡の中を通り抜けるような不思議な感覚を覚えた次の瞬間、そこはエ・ランテルの旧都市長の館ではなく、広々とした草原になっていた。その奥にあるなだらかな丘は部分的に崩れており、そこから古めかしい門の一部が見えている。そして、その門から少し離れた場所にそれほど古いものではないログハウスが建っていた。ログハウスの入り口近くには、五人のこの世のものとも思われない美女が整然と並んでおり、リ・エスティーゼ王国からの客人が現れたのを見て、一分の狂いもないお辞儀をした。

 あまりにも突然の風景の変化に、流石のラナーも目を見開いている。貴族達は何が起こったのかかなり混乱して周囲を見回していたが、場違いとも言える美しいメイド達の姿とその見事な動きに、徐々にそちらに目が釘付けになっている。

 蒼の薔薇はその五人の顔に刮目した。四人はあまり見覚えのない人物だったが、一人は明らかにガガーラン、ティア、イビルアイの三人にとって忘れようにも忘れられない顔だったからだ。

「あの野郎、あの時の蟲のメイドじゃねぇか……」
 ガガーランがぼそりと呟く。イビルアイから、あの夜戦ったヤルダバオトのメイド悪魔は蟲のメイドを含めて五人と聞いている。蟲のメイド以外は全員仮面を被っていたという話だったので、顔で判別することはできない。しかし一糸乱れず行動している様子からすると、最悪、あそこに並んでいるのは、全員件のメイド悪魔の可能性もある。

 蒼の薔薇は一瞬殺気を放ち、身構えようとした。しかし――、この場はあくまでも王国と魔導国の外交儀礼として設けられているものであり、メイド悪魔達は既に魔導王の支配下に置かれているという話を聞いたことを思い出し、ぎりぎりで思い留まった。

「ようこそお越しくださいました。リ・エスティーゼ王国の皆様。ここからは、私達がご案内させて頂きます」
 以前アルファと名乗っていたメイドが、そんな蒼の薔薇の様子には目もくれずに冷静な口調で挨拶をした。

「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
 ラナーもそれに落ち着いた様子で応える。アルファはそれに恭しく一礼して応えるが、軽く蒼の薔薇の方を向いた。

「それから……、そちらの方々が気になさっておいでのようですので予め申し上げておきますが、ご推察の通り、私達は以前魔皇ヤルダバオトに支配されていたメイド悪魔です。しかしながら、先日の聖王国での戦いの折に、慈悲深き魔導王陛下の御力で魔皇の呪縛から解放され、現在は魔導王陛下にお仕えしております。以前の私はアルファと名乗っておりましたが、現在は新たに頂いた名であるユリ・アルファと名乗っております。ですので、今後は私をユリとお呼びください。他の四名も全て新たな名を頂戴しております」
 ユリは淡々とした調子で話し、その内容にラナー以外の王国貴族達はざわついた。

「ただ、幾ら当時はヤルダバオトに支配されていたとは言え、私共が王都を襲うのに協力させられたのは事実。ですので、ここでお詫びを申し上げたいと思います」
 ユリはそのまま、静かに頭を下げ、他のメイド達もそれに習う。

「頭を上げてください。お話はよくわかりました。私はそのようなことにはあまり詳しくはありませんが、あなた方は主人の命令には逆らえないものなのではありませんか?」
「その通りです。それが支配されるということですから」
「であれば、私達が恨むべきなのはあなた方を支配していた魔皇ヤルダバオトですし、魔皇ヤルダバオトは既に魔導王陛下が倒してくださったのですから、何も問題などありません。ですが、そのように謝罪してくださったことに関しては、私達王国の者としてもそのお気持ちだけ受け取らせて頂きます」

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