ハーメルン
イビルアイが仮面を外すとき
蒼の薔薇、新たなる旅立ち(四)

 開かれた扉の向こうには、赤い絨毯が敷かれ、両脇に天上から巨大な旗がいくつも垂れ下がる荘厳な広間になっている。広間の一番奥は数段の階段になっており、その上には見たこともないくらい巨大な水晶で出来た玉座が置かれている。そこには離れていてもその価値の高さがわかる程、華麗な刺繍が施された黒いローブを纏った魔導王が座っている。その右隣には、エ・ランテルで会ったはずの宰相アルベドが立っている。階段の手前には、五人の人影が左に三人に右に二人に分かれて赤い絨毯を挟んで立っており、そこから、広間中を覆い尽くすように、見るからに強大な力を持つと思われる異形の者や亜人達が整然と並んで跪いている。

 ラナーは王国の黄金という名に相応しい美しい所作で、魔導王から視線を逸らすことなく赤い絨毯の上を堂々たる足取りで進み、それにレエブン候、有力貴族達、蒼の薔薇が続いた。

 やがて、玉座の少し手前まで歩み寄ったラナーはそのままその場に跪き、他の者はその後ろに整列すると、同じように跪いた。

「アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下に申し上げます。リ・エスティーゼ王国ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ女王陛下が陛下への拝謁及び属国の申し入れの許可を求めておいででございます」

 宰相アルベドの凛とした声がラナーの到来を告げると、それに対して、少しの間を置いて重々しい声がした。

「許す」

 アインズは王国から来た代表者達を、玉座から見下ろす。その背には見るものを恐怖させずにはいられない黒いオーラが立ち上っていた。
 
「アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下。私、リ・エスティーゼ王国女王ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフに拝謁の栄誉をお与えくださいましてありがとうございます。そして、また、リ・エスティーゼ王国は、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国となり、魔導王陛下の庇護を受けることを希望しております。何卒、我らが望みをお聞き届けくださいますよう、リ・エスティーゼ王国民に代わりお願い申し上げます」

 ラナーは言い淀むことなく、頭を垂れたまま魔導王に奏上した。

「よくぞ参られた。ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ女王陛下。私がアインズ・ウール・ゴウン魔導王である。私は貴殿の我が居城への来訪を歓迎する。そして、貴国が希望されるのであれば、双方の合意のもと、出来うる限りの助力を約束したいと考えている。リ・エスティーゼ王国とアインズ・ウール・ゴウン魔導国は、これまで不幸な行き違いもあったが、共に平和を築いていける関係を結びたいと私は願っていた」

「寛大なお言葉に感謝致します、魔導王陛下」

 魔導王の態度はまさに生まれながらの支配者と言っていいものであり、王国の面々はその威光に圧倒される。そんな中、ラナーだけが物怖じせず魔導王に言葉を返した。階段の左手前に立っていた恐らく魔導王の側近と思われる蛙頭の男性が優雅に一礼をする。

「それでは、私、魔導国守護者であるデミウルゴスが、この度のリ・エスティーゼ王国ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ女王陛下より申し出のありました魔導国の属国となる件につきまして、双方の合意に係る文書を読み上げさせて頂きます。この内容に異論がない場合、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ女王陛下及びアインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下の宣誓により、リ・エスティーゼ王国は正式にアインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国となり、この合意文書の内容が本日付で発効するものと致します。異論はございますでしょうか?」

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