蒼の薔薇、新たなる旅立ち(終)
ナザリック第九階層のよくわからない場所で、イビルアイは途方に暮れていた。
(しまった。ここは思ったよりもずっと広い……。同じ建物の中なんだから、なんとでもなると思ったのは甘すぎた。完全に道がわからなくなったぞ……)
場所を聞こうにも、見回しても周囲には人の気配もなく、気分で歩いていたので何処をどう歩いてきたのかも覚えていない。蒼の薔薇の誰かに〈伝言〉でもすればいいのかもしれないが、自分が今いる場所がわからない以上、徒に騒ぎを起こしてしまうだけのような気がする。それに、そもそも〈伝言〉なんて信頼できないものを使うのも気が乗らない。
(どうしよう。かといって、自分が会場にずっといなかったことがバレれば、それはそれで騒ぎになるだろう。せめて、ティナに言ってくれば良かった)
今更後悔しても仕方ない。せめてメイドくらい近くを歩いていないだろうか。ともかく、がむしゃらに前に進むよりは今来た方向へ戻った方がいいだろう。そう思ってイビルアイが振り向くと、少し離れた場所に先程までは気配もなかった黒い鎧を着た誰かが立っていた。
「こんなところで何をしているんだ?」
「えっ!? あ、あの、私はその、怪しい者ではなくて! って、もしかしてモモン様ですか?」
突然声をかけられて驚いたものの、その人影が見知った者であったことに気が付き、イビルアイはほっとした。
「その通りだ。会場から突然出て行ったきりなかなか戻らないからと、心配されたデミウルゴス殿からお前を探すように連絡を受けて探していたんだ。あのような公的な場で長いこと席を外すのは非礼だぞ。それに、そろそろ戻らないと晩餐会が終了してしまう」
モモンは軽く腕組みをし、まっすぐにイビルアイを向いて立っている。そのモモンの言葉は当然で、彼が自分を見つけてくれなかったら不味いことになっていたのは間違いない。恥ずかしくなったイビルアイはモモンに軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。助かりました、モモン様。あの……えっと、その、アインズ様では……?」
「前にも言ったが、私はアインズ様ではない。――もしかして、イビルアイ。お前はアインズ様を探していたのか?」
モモンのその言葉に一瞬ぎくりとするが、イビルアイは素直に頷いた。
「このナザリックで、アインズ様のお部屋を闇雲に探しても見つかるわけがないし、万一たどり着けても中に入れる訳がないだろう。呆れた奴だな」
「…………」
言われてみれば当たり前だ。恐らくこの地の最高地位にある人の部屋が、簡単に余所者が近づける場所にあるわけがない。それにアインズと何の約束もしていないわけではないが、今日個人的に呼ばれているわけではない。なんとなくイビルアイは段々気分が落ち込むのを感じ、肩を落とした。
「まあ、そう気に病むな。晩餐会が終わるまで、あと少しくらいは時間もある。その間に会場に戻れば大丈夫だろう」
そういうと、モモンは後ろを向いて誰かと話しているようだった。そして、再びイビルアイの方を向き、自分に付いてくるよう言った。
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言われるがままにイビルアイはモモンの後を追って豪華な通路をしばらく歩いたが、どうも、モモンは会場ではなく別の所に向かっているようだった。不審には思ったが、モモンがおかしなことをすることはないだろう。イビルアイが大人しくついていくと、モモンはやはり豪奢な装飾が施された大きな扉の前で足を止めた。扉の両脇には不動直立の姿勢を保った警備兵がいる。
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