8: 希望と欲望
アウラはフェンリルに乗って、ビーストマンの国と竜王国の間にある森を偵察がてら走り回っていた。
山岳地帯の裾野を越えたところに広がるその森は、トブの大森林ほどではないようだがかなり広く、鬱蒼とした背の高い木が空を覆い隠すようにどこまでも続いている。とはいっても、レンジャー技能に長けたアウラにとっては別にたいした問題ではない。
「この森にも面白いのがいたりしないかなぁ。ハムスケみたいなやつ。そしたら、アインズ様にお願いしてペットにするのもいいよね」
ほんの少しでも興味を持てるような存在を探して森の中をあちこちうろつくが、不思議なことに、あまり動物や異形種のような生命あるものの存在が感じられない。もっともレベル百のアウラにとって意識できるほどのレベルの存在がいないというだけなのかもしれないが、それにしても妙だった。
「どう、何か感じる? フェン」
どことなく緊張した様子のフェンリルに気が付き、アウラは警戒感を強める。森の奥から漂ってくる風に妙に生臭い何かを感じ、アウラはそちらに向かってフェンリルを走らせた。
奥に進むにつれてその匂いは徐々に強くなる。おまけに、まるで行く手を阻むかのように、おかしな霧のようなものまでがたちこめ始め、さしものアウラでも先を見通すのが困難になってきた。
「なんだこりゃ。この霧……、どことなく、カッツェ平野の霧と似ているような? フェン、注意深く行くよ」
アウラは奥に突き進むのではなく、霧が広がっている範囲を確認しようと、ゆっくりとフェンリルを歩かせた。それはかなり広範囲に渡っており、まるで何かを隠すように広がっているようにも思える。霧のせいでよくわからないが、奥の方には何か変わった面白いものが存在しているのかもしれない。そう考え、アウラは少しばかりそれが何なのか興味を惹かれた。
「うーん、これは、他の子たちも使わないと難しそうかな」
アウラは自分の使役している魔獣達のうち、隠密行動に長けたものを選び出し、霧の奥の方を探らせる。しばらくして、戻ってきた魔獣達と言葉を交わすと、アウラはしばらく腕を組んで考えた。魔獣達の報告では、その霧の奥にはかなり開けた場所があり、非常に多くのアンデッドがうろついているらしい。
(多分、あたしでも問題なく対処はできるとは思うけど、あたし一人で深入りするよりも、まずはアインズ様にご判断いただいたほうがいいよね)
アウラは軽く頷くと魔獣達に指図した。
「お前たち、この辺りに何かを近づけないようにして。あまり生き物の気配はないから大丈夫だとは思うけど。あたしはアインズ様にご報告してくる」
見張り用の魔獣を霧からある程度離れた場所に何体かずつ配置する。これなら恐らく自分が戻ってくるまで何かがこの中に立ち入ることはないだろう。
自分の仕事に満足したアウラはフェンリルに飛び乗り、ひとまずシャルティアの元に向かった。
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漆黒と蒼の薔薇のアゼルリシア山脈探索は順調に進んでいた。途中で、巨大な羽を持つ人の顔をしたペリュトンや、凶悪なハルピュイアの群れなど、この山脈特有のモンスターに何度か襲われたものの、その程度のモンスターは蒼の薔薇と漆黒の敵ではなかった。
通る道もない山肌を縫うように進んでいく行程は、新しい道を自分たちが作っていくという新鮮な感覚があり、しばらく進むたびに見えてくる新しい景色も心奪われるものがあった。不可思議な次元の門らしきものから熱いドロドロした溶岩が流れ落ちていく危険地帯を越えると、ゴツゴツとした熔岩性の黒い岩と高山独特の灌木や鋭い葉を持つ植物が生い茂る急な斜面がどこまでも続いている。
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