10: 神に挑む
竜王国では、シャルティア率いるアンデッド軍と籠城しているビーストマン軍が膠着状態になっていた。
シャルティアは都市から五百メートル程離れた場所に陣を張ると、その後積極的に攻撃をすることはなかった。クリスタル・ティアと朱の雫がビーストマンに何度か降伏勧告を行ったが、返ってくるのは口汚い罵倒と、半分崩れた城壁の上から投げ落とされる、噛み痕のあるバラバラにされた人間の遺体だけだ。
都市の内部からは時折、悲鳴と柄の悪い笑い声が聞こえてくる。残り少ない竜王国兵たちは積極的に攻撃することが出来る状態ではなく、シャルティアの陣の若干後方に遠距離攻撃部隊と後方支援部隊を待機させているのみである。
「シャルティア殿、このまま奴らを放置しておくのかね?」
アンデッドで都市全体を包囲するように配置したまま動かないシャルティアに、都市周辺の偵察から戻ってきたアズスが声をかけた。後ろにはルイセンベルグと朱の雫の他のメンバー、そして数名の冒険者がいた。
今の所、ビーストマンの動きは静かだ。しかし、またいつ大軍が編成され、再度竜王国への攻略が始まらないとも限らない。できれば今のうちに国内に残るビーストマンをできるだけ排除してしまいたい。そして、それは魔導国軍の力があれば容易に出来るはず、というのがセラブレイトとアズスの考えだった。
「そういうわけではありんせん。わらわは待っているのでありんす。愚かなビーストマンを叩き潰すのは簡単なこと。しかし、我が主はあの愚かものどもにも慈悲を与えるべきだとお考えなのですぇ」
「慈悲ですか。魔導王陛下は、あのビーストマンたちにも慈悲をかけられるというのですか? 既にあのように人間を食い散らかしているような連中なのですぞ?」
「ぬしは何か誤解しておらんせんか? 今回魔導国が竜王国へ助力をしているのは事実でありんす。しかし、それはビーストマンを滅ぼすことを目的にしているわけではありんせん。もちろんビーストマンがアインズ様……魔導王陛下のお慈悲に唾を吐くなら別でありんすが」
シャルティアは鼻で笑うと、アズスに対して冷たい視線を向けた。
「つまり、魔導王陛下は人間の味方をされているわけではない、ということですかな?」
「アインズ様が目指しておられるのは、全ての種族の共存共栄。人間だから、ビーストマンだから、というのはあなた達の都合。わかったら、しばらくおとなしく見てなんし」
「シャルティア殿、それはどういう……」
その時、シャルティアは何かに気がついたかのように動きを止め、しばらく何かを小声でつぶやいていたが、それが終わると、アズス達に向き直った。
「都市の周辺にまだ冒険者が残っているなら、竜王国軍の辺りまで引き上げるように指示しなんし。これから我が至高の主がビーストマンに引導を渡しにこの地に参られる。下手な場所にいると巻き添えになるでありんす」
「な……!?」
慌ててアズスたちは、近くを巡回している冒険者たちを集め、竜王国軍兵の近くに陣取る。
シャルティアは周囲のアンデッド達に次々と指示を出すと、自らの周囲には高位の下僕だけを残した。アンデッド兵団は少し離れた場所に整列し、シャルティアと高位の下僕はその場に跪いた。
やがて、整列していたアンデッド兵団が整然と大きく二つに分かれる。その間をゆっくりと三つの人影が歩いて来るのが見えた。
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