6: アインズとイビルアイ、真実と向き合う
アインズが空をふと見上げると、そろそろ夕方近くになっているようだ。太陽はだいぶ落ちてきて赤みを帯びつつあり、うっすらと浮かぶ雲はその光を受けてほのかな桜色に染まっている。そろそろ今日のデートの時間も終わりに近づいている。
イビルアイと過ごした午後は案外悪くなかったと思い、そんな風に感じる自分に少し驚く。
隣を歩いているイビルアイの表情は仮面に隠れて見えないが、何かを考えているのか、先程からずっと黙ったままアインズの歩調に合わせて歩いている。
アインズが向かったのは、いざという時の告白タイムにお勧めですよ、とパンドラズ・アクターに言われていたエ・ランテルの郊外にあるこじんまりとした公園だ。広く活気のある中央公園とは違い、訪れるものは少ないが木々や花が美しく植えられており、小さな噴水には水を飲みにやってくる小鳥もいる。ところどころにそっと置かれたベンチもあり、全体的に穏やかな優しい雰囲気を醸し出している。
この場所に来たアインズの意図はシモベたちには既に読まれていたらしく、恐らく何かをやったのだろう。今、公園内を歩いているのはアインズとイビルアイだけで、他に誰かがいる気配はない。
これなら、どんな修羅場になっても大丈夫ですよ、父上、と良い笑顔でいうパンドラズ・アクターが目に浮かぶが、思い切りその幻影を打ち払うと、大きな樹の脇にあるベンチにイビルアイを連れて行った。
「座るといい。なかなかいい場所だろう?」
「ああ、こんな綺麗な場所があるなんて知らなかった。さすがはモモン様だな……」
あの後ずっと固い雰囲気で、ここに来るまでの道中は黙り込んでいたイビルアイも、さすがに公園の心落ち着く風景に少し気が緩んだらしく言われるがままにベンチに腰を下ろすと、周囲を嬉しそうに眺めている。その様子に少しほっとして、アインズもイビルアイの隣に腰を下ろした。
座った瞬間に、イビルアイの身体がびくっとするのが感じられる。やっぱり、隣に座るのは距離感的に微妙だったか。俺もパンドラズ・アクターに隣に座られるのはあんまり好きじゃないし。でも、座ってしまったものは仕方がない。そっとイビルアイの様子を窺うと、なんとなく身体が少し震えているように思える。
「イビルアイ、寒いのか? そろそろ夕方だしな」
「いや、寒くなんて無い。むしろモモン様が隣にいてくれるから、とても暖かい気がする」
「そ、そうか。それならよかった」
何故そんな風に思うのかさっぱりわからないが、無難にアインズはそう応える。
「ところで、イビルアイ。先程していた話の続きなのだが……」
そう話しかけると、イビルアイの身体は緊張したかのように、更に身体を固くしたようだ。そんなイビルアイを見ながら、アインズは何をどう話したらいいのか少し考える。
イビルアイは先程、自分を愛しているといっていた。しかし、イビルアイが好きなのはアインズではなく、あくまでも、自分が作り出した『人類の英雄モモン』という虚像だ。だから、その仮面を被ったまま、英雄モモンとして相応しいことを伝えて無難に別れるということもできる。そして、それがナザリックの支配者としてアインズが取るべき一番正しいやり方だとも思える。
しかし、今日それなりの時間をイビルアイと共に過ごして、ふと自分の中に今までは感じたことのない、軽い苛立ちのようなものがあることに気がつく。
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