ハーメルン
イビルアイが仮面を外すとき
アルベド VS アインズ(前編)

 それは、ある意味、ほんのちょっとした不幸な偶然が重なった結果だった……。

 アインズとイビルアイが秘密の『デート』をした翌日、アルベドとモモンに扮したパンドラズ・アクターは、いつものようにエ・ランテルの魔導王の執務室で執務を執り行っていた。最も、国の方針に関する重要な案件についてはナザリックでアインズが決裁する必要があるため、二人が取り扱っているのは、あくまでもそれ以外の雑務にあたる部分に関してのみである。

 建国以来、魔導王が午前中はこの場所で執務をしていたという慣例上、アインズが休養中も、毎日この時間帯は二人が執務を執り行い、宰相アルベドや任期付都市長モモンに謁見を求める者などの対応も済ませることになっていた。

 そして、その日の執務時間の終了直前に入っていた謁見予定が、モモンの旧知の仲であり魔導国冒険者組合長アインザックだったのもほんの偶然だった。

 アインザックの用件は、冒険者組合の現状報告及び組合で発生している問題の相談であり、その事自体は特に滞りなく片付き、アルベドとモモンの提案に納得したアインザックはいつものように丁重に部屋を辞そうとした。……のだが、その帰りしなに彼は何の悪意もなく、ナザリックを破壊しかねない巨大な爆弾を落としていったのだ。

「そういえば、モモンくーー殿、昨日は随分お楽しみだったとか? 街では結構な噂になっておりましたよ。さすがに英雄モモン殿の人気は半端ないですな」
「組合長、一体何の話をしていらっしゃるのでしょう? 私にはなんのことやらわかりかねますが……」

 若干ニヤニヤ笑いをしながら、モモンをからかうような口調で話しかけたアインザックに、モモンことパンドラズ・アクターは、全く心当たりがないとばかりの冷静な口調で応える。

「別に隠すことなどないでしょう! モモン殿と私の仲ではないですか。しかし、モモン殿の趣味がまさかロリ……ごほん。いや、うら若い女性だったとは。以前、その……大人向けの店にお誘いした際に、モモン殿の反応がイマイチだったのも頷けますな」
「組合長、あまり根も葉もない噂を広めるのはやめてください。あと、あの娼館でのことはいい加減忘れていただけませんか?」

 モモンの呆れたような言葉も無視し、アインザックはふむふむと勝手に一人で納得すると、自分は理解のある大人の男だから何も心配しなくてもいいといった顔をしていたが、やがて、モモンの隣に座って二人の様子を眺めつつ、若干冷たい視線を自分に投げかけているアルベドに気がついたらしく、少々慣れ慣れしかった態度と口調を改めた。

「ああ、宰相様、御前で大変失礼を致しました……。それではアインザック、これにて退出させていただきます。モモン殿、それではまた!」

 アインザックは慌てて話を切り上げ、アルベドに向かって恭しくお辞儀をすると、そそくさと部屋を出ていった。

 バタン、と彼がドアを閉める音が妙に大きく部屋に響く。

 そんなアインザックを聖母のような優しい微笑みで見送ったアルベドの顔は、執務室の扉が閉じた瞬間、まさに鬼というべき形相に变化していた。部屋の空気は急激に冷え込んだように感じられる。扉の側に控えているメイドがかなり怯えているように見えるのは気のせいではないだろう。

「……パンドラズ・アクター。今のは一体どういうことかしら?」

 静かにそう告げるアルベドの声は、逆にその怒りの深さを思わせるもので、普通の神経のものだったらその場に倒れるか、慌てて逃げ出してもおかしくはなかった。

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