百より多い星々を見て
青年が身体を起こすと、身体を包んでいた毛布がズレて一瞬肌寒さを感じる。
季節的に寒冷期という訳ではないが、自らが全裸なのを確認して納得した。
隣で同じベッドに横たわる、青年と同じ格好の自らの妻。昨晩は張り切り過ぎた、と反省する。
起き上がって彼女に毛布を掛けると、青年は朝食の準備を始めた。
ハンター稼業を担う青年は朝も強く、簡単な料理ならお手の物である。
ガーグァの卵とモスの肉を使ったベーコンをそれぞれ別の火で炙り、先に焼いてからバターを少量塗り込んだパンの上に乗せた。
香ばしい香りが部屋中に広がり、目をこすりながら一人の女性が歩いてくる。
女性というにはまだあどけない表情の残る、黒髪の彼女は「ごめん、寝てたぁ……」と欠伸をしながら席に着いた。
「おはよう、シータ。なんならもう少し寝てても良かったんだぜ?」
「パンが冷めちゃうよ」
「それもそうか。ほらよ、熱い内に食べな」
青年はシータと呼ばれた女性が座った席の前に、出来立てのサンドイッチを並べる。
「ジャンも食べる?」
「勿論」
準備が終わるとジャンと呼ばれた青年も彼女の前に座って、自分で作ったサンドイッチを口の中に放り込んだ。
焼き加減の良いパンに挟まれた半熟の卵がベーコンに絡まって、口の中で混ざっていく。
この焼き加減こそ、ハンターをやったいたから身に付いたものだと自賛した。生肉を肉焼き機で転がしながら焼くあの感覚を思い出す。
ハンターをやっていると、家族との時間は大幅に減る事が多い。
狩り場が住居から遠かったり、狩りが長引けば数日───長くて数週間家を開ける事も多々あった。
だからか、こんな当たり前のような生活も二人にとってはかけがえのないものである。
離れている時間はそうでもない。
しかし、一番怖いのは離れてから二度と会えなくなってしまう事だ。
モンスターと対峙すれば、人間の命なんて小さなものである。それを知らない者は、この世界では少数派だ。
「今日はどうする? イアンが帰って来るまで、俺は狩りに出るつもりはないけど」
「お買い物、行きたいなって。……うーん、それにしてもお兄ちゃん古龍の調査に行ったんだよね? 心配じゃないの?」
彼の言うイアン───イアン・ジスティはジャンの仕事の相棒でもあり、シータの実の兄でもある。
ジャンの話では、ドンドルマで揉め事に巻き込まれて、何故か古龍の調査に向かわされたという話だ。
ハンターの事は良く分からないが、彼女は古龍という存在を知っている。それこそ物心が付いていないか付いているかといった歳の話だが、目の前で牙を見せる龍を見た事があったのだ。
思い出すと少しだが身体が震える。今でこそその程度だが、あの時の恐怖が完全に消える事だけは一生ありえない。
他のモンスターと関わった事がない事もあり、シータの中で古龍はそれ程までに恐ろしい相手であった。
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