突然巻き起こった衝撃はアリーナ全体を揺るがした、アリーナを映していたはずのモニターはブラックアウトし砂嵐が巻き起こっている。一体何が起こっているのだと矢継ぎ早に声が広がっていくがアリーナはそれ所ではなかった。アリーナの中央から巻きあがっている砂煙、そこから何かが姿を現そうとしていた。先程まで『超速零速』で一夏を追い詰めていた鈴も動きを止めて其方へと意識を集中させていた、それは一夏も同様だったが驚きによる反応の方が大きかった。
「一夏、よく聞きなさい。これが緊急事態って事は分かるでしょ、だから此処はゆっくり後退するわよ」
「お、おう。こ、こんなんじゃ試合なんて無効だろうしな」
「続いてもあのままじゃあたしの完勝だったけどね」
「何も、言えねぇ……」
流石に状況を理解している一夏は若干凹みつつも鈴に合わせるようにゆっくりと後ろへと移動していく。既に「白式」のSEも底を尽き掛けている。それほどまでに鈴の猛攻は激しかった。 一夏は改めて代表候補生の力を思い知らされた気分であった。少しずつ撤退をし始めている所だったのだが自分達の間を突き抜けるかのような凄まじい勢いで熱線が通り過ぎていった。
「……えっ、何だ今の、ビーム……?」
「ビーム兵装持ち…今のが連続で撃てない事を望むわ」
背中に冷たい物が走り顔を青くする一夏と冷静にそれを簡易分析しデータを見ながらどうやって切り抜けるかを思考する鈴。此処は流石に数と経験を重ねた鈴が前を行く。そしてゆっくりと砂煙の中からそれが姿を現した瞬間、鈴は全身に鳥肌が立つかのような感覚を味わった。本能と直感が告げている、あれはやばいと。
そこにあったのは異形の何かだった。闇に身体を漬け込み、闇が身体を染めたかのようなカラーリング。異常なほど肥大化している両腕両足、地面に付くほどの巨大さから一瞬ゴリラを連想してしまった。異様なまでに細く何故身体を支えられているのかと思うほどの腰、そして鬼のような形相、禍々しすぎる姿にそれをみたもの全てが寒気を覚えていた。
『織斑君、凰さん!!今すぐアリーナから脱出してください!直ぐに先生達がISで制圧に行きますから!!』
通信からは真耶の悲鳴のような声が響いてくる。このような非常事態、学園が始まって以来なかったケースだ。此処に喧嘩を売るという事は全世界に喧嘩を売るに等しいため、頭が逝かれていても早々しでかさない事なのだ。
「山田先生でしたっけ、悪いですけどそれは難しいっぽいですよ。あいつこっちを既にロックしてやがりますもん。今撤退しようとしたら確実に攻撃をして背後からそれを受ける形になる…いえ、もっと最悪なのはアタシ達を追って来てピットの中にまで侵入してくる事。なら此処でアタシがあいつを食い止めるのが最適解で、先生の方で生徒の避難誘導をする事を望んでる。―――そうでしょ、織斑先生」
『……ああ、悔しい事ながらな』
「千冬姉!?」
通信から聞こえてきた姉の言葉に驚いた、つまり姉はこんな危険な場所に幼馴染である鈴を囮として配置し続ける事を言っているんだと理解した。そんな危険な役回りをさせるなんて出来ないと一夏は思う、折角会えた友人を危険な目になど晒したくはない。
『現在シールドがMAXレベルでロック、観客席には緊急用シャッターが降りてしまっていて生徒達を逃がす事が出来ない。今上級生に教員達で解除を試みさせているがそれも時間が掛かる。生徒を逃がす為に生徒を危険を晒すなど、本来許されない事だ…だが』
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