ハーメルン
黄金の日々
ハーレム王子ザナック

 
 
 


 
 
 王都悪魔襲撃事件より数日が経った頃、王都はすでに、その様なことが無かったかのように平穏を取り戻しつつあった。
 もしかして見せかけだけの平穏かも知れないが、それは市民の穏やかな暮らしを願う思いの表れだろう。俺だって平和な王都が何よりだ。そして出来れば地方でノンビリと暮らして余生を送りたいものだな……。
 そんな事を考えながら王都を馬で従者と供に闊歩していると、商店街を荷物運搬用のカーゴを引いている馬車と、見知った顔の男性を見つけた。
 俺は従者達に「知り合いだ。少し話したら家に帰るので護衛はもう良い」と告げて彼らを帰らせると馬車へと馬を向ける。

「あっ ザナック様だ!」
「おい!盾王子のザナック様だぞ!」
「いや 悪魔殺しのザナック様だろ!」
「馬使いのザナック様じゃなかったか?」

 ……増えてるな……アダ名。

 俺は彼らに手を振ると商店街の人達数百人が「おおお――!」と盛大な拍手と共に盛り上がる。

 なんか……人気出てきてる!?

 ……いや、なんかさあ、薄々気づいてはいたんだよ。
 「王子としての義務です」という言葉でラナーの言いなりに動いてきたけど……アイツ、本当に俺を王にするつもりじゃないだろうか?随分と人望とか声望のような物がアップして来ているのだが……。

 王とか本当に無理だからな!
 能力が無い。野心がない。なにより本人にヤル気がない! 
 ……おっとイケナイ。俺はさっきの男性を捜してみると、さっきの盛り上がりで俺の存在に気づいたらしく、少し離れた位置で馬車を停めて俺に敬意を払い帽子を取り頭を垂れていた。

「おお、すまんな、待っていてくれたのか」

「お疲れ様でした。ザナック様。事件では大活躍だったとお聞きしております」

 目の前の男、ラナーの家令をやっている男性が疲れたような顔で俺を讃えてくれる。

「いや それは誤解で俺は全然働いてないんだけどな……買い物か?」

 普段はラナーの領地(リ・エスティーゼ近郊)にて領内を取り仕切っている彼を王都で見るのは珍しい。
 王都でないと買えない物だろうか?普通の商品なら領内にある店舗で間に合わせるほうが領内の経済活動としての正しい姿だからな。

「ええ、何故かウチのメイドが世界中のハチミツを集めるんですよね」
「……変なメイドを持つと大変だな」

 そう言って俺は彼の肩を励ますようにポンと叩く。あと、ゴメンナサイの意味も込めてポンと叩く。

「それはそうと、なんでそんなに疲れてるんだよ?」
 そう、俺は昔馴染みのこの男が険しい顔で歩いていたので引き留めたのだ。
 彼は良い家の出であり、エリート官僚としてバリバリ働いていた人物だが、40歳くらいに出世争いに敗れて落魄しかけた所を、時の内務官に乞われてラナーの家令の任に就いた人物だ。もう50を過ぎているが、もっと精力的な男だったように記憶している。

「いえ……その……」
「あー、わかってるわかってるラナーのことだろ?」
「え!?あ……はい……流石に仲の良い御兄妹であらせられますね。ラナー様からお聞きになられておられましたか」

 えっ、当たってた!?
 適当だったのに……アイツが俺以外の人を困らせるのって珍しいな。

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