勇者と宮司のプリモ
初めて宮司システムに搭乗した時のことは鮮明に覚えている。体に埋め込んだ■■を神樹様に繋げると一気に流れ込んできた情報で頭がパンクして身体中から血が噴き出た。
大赦の神官たちは大慌てだったがそれでも僕は接続を続けた。体が裂けるような痛みがあって苦しかった。流れ出た血が呼吸器を詰まらせて苦しかった。
でもこの痛みの数だけ今は僕が必要とされているような気がして心地良さすらあった。
宮司御記 大赦検閲済
私の目に入る景色全てが神樹様の伸びた枝や根に覆われ、見たことのない幻想的な景色を作る。しかしこんな綺麗な景色を見ても綺麗だと感動する前にそもそもどこかも分からない場所に放り出された事による不安の方が大きかった。
隣にいるお姉ちゃんだけは不安よりも申し訳なさそうな顔をしていた。
「僕の声が聞こえているか? 勇者たち」
頭の中で低い男性の声が聞こえる。幻聴かと思ったが隣にいる姉も声に反応してる事からこれが幻聴でないことが確認できた。
「聞こえているという前提で話させてもらう。今、君たち4人の勇者はそれぞれ別の位置に出現している。スマホの画面を見ろ。位置情報アプリが一点を示しているな? まずはそこに行って合流してくれ」
感情が込められていない声が私たちに指示を出す。一方的に命令されたことが気に入らなかったのかお姉ちゃんが少し怒った声色で話す。
「ちょっと? どこの誰か知らないけど、いきなりそんなこと言われてハイそうですかってなると思っているの?」
「ちょっと、お姉ちゃん。そんな風に行ったらケンカになっちゃうよ」
苛立った声色の姉に対して宮司を名乗った男性の声はとても平坦だった。
「そうか、一方的に命令したことが気に入らなかったのなら謝ろう。しかし君以外の勇者たちがこの状況を飲み込めているとは確信できない。今は素早く合流するべきだ」
淡々と言葉が続いていく。謝罪にしても声色は変化がなく感情が読み取れない。しかし言っていることも事実であり、お姉ちゃんは渋々だと言いたげな顔でスマホの示している場所に私の手を引きながら進んでいく。
しばらく進んでいくと目的の場所にたどり着く。茂みのようになっている枝をかき分けて前に出ると拓けた場所に出た。そこには不安そうな顔を作った友奈さんと東郷先輩がいた。
友奈さんは私とお姉ちゃんを見つけるとパアッと顔を明るくしてお姉ちゃんに駆け寄る。
「風先輩! 樹ちゃん! よかったー! でもどうして2人ともここに?」
「よかった」
どうやら勇者というものに選ばれたのは勇者部のメンバーのようだ。なんとか合流できた事に思わず安堵のつぶやきが言葉になる。
「合流出来たようだな。なら事態の説明に入ろう」
私たちが合流したタイミングで宮司さんの声が聞こえる。どうやら声の主は私たちが合流したことが分かっているらしい。
「その前に、さっきは聞きそびれたけどあんた誰よ?」
二人と合流したことで少し精神的に余裕が出来たのか、お姉ちゃんが質問を何もない宙に向かってする。少なくともさっきから聞こえる声の元は頭に響き、向くべき方向がなかった。
「僕は大赦から派遣された宮司システムのパイロットだ。バーテックスと戦う君たち勇者を戦術的にサポートする事が僕の仕事だ」
「バーテックス? 勇者?」
聞きなれない単語に友奈さんがおうむ返しに単語を疑問形で並べていく。確かに私たちは勇者部に所属しているが勇者になった覚えはないし、バーテックスという言葉は今日初めて聞いた。
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