わしおすみ
「……宮司システムと勇者システムの同調実験ですか?」
鷲尾家の屋敷にて須美を拒絶してから数日、学校から帰ってきた和仁は研究者の言葉をそのまま反芻して呟いた。
少しキョトンとした様子の和仁を見ながら眼鏡の研究者は続ける。
「はい、先日鷲尾須美様、神稚児様の妹君が正式に養子に入られましたので勇者としての活動が始められます。それにより滞っていました稼働試験の方を始められます」
鷲尾須美という名を聞いて和仁の額に小さなシワができる。
「他の勇者たちではダメですか?」
和仁は先日から義妹になった須美にあまり会いたくないと思った。出来ることなら顔を合わせる回数も最少限度、お役目の時にだけで済めば最良とさえ考えている。
会いたくないという気持ちには先日こっぴどく拒絶した為、顔を合わせづらいという思いも含んでいた。
そんな和仁の様子から何となく心情を察した研究員は申し訳なさそうに頭を何度も下げながら続ける。
「申し訳ありません。他の勇者様についてはまだシステムが完成しておらず、須美様の物を最優先で完成させましたので、その他の完成は当分先になるかと。それに、実際に稼働させないとシステムの改良点も見つけられませんので現状開発は中断している状態になります」
「……それなら仕方がありませんね」
苦虫を噛んだような顔を作る和仁。来たるバーテックスとの戦いまで残された時間はそれほど多くはない。進められるのならば可能な限り研究は行うべきだ。そう和仁は結論づける。
自分の感情よりも今、自分が何をしなければいけないかを優先する。今までそうしてきた、だからこれからも自分の思いは劣後させる。優先すべきは自分以外のその他全員を救うこと。
「では予定の調整はこちらで行いますので……」
そう言って眼鏡の研究者は去っていった。後に残された和仁はただじっとその背中を見つめていた。
これから義妹であるアレに会うと思うと気が重く、何処かぎこちない足取りで和仁は部屋に帰っていった。
時間が経ち週末。
和仁は研究所地下の実験室にて宮司システムに繋がり、その眼前には私服姿に勇者に変身するためのアプリが導入されたスマホを手にした須美が立っていた。
須美は宮司システムに繋がった和仁を見て固まっていた。
上半身が露わになったことにではなく、その肉体が十一歳という年齢にしては不釣り合いなまでに鍛え上げられていることにはなく、体に刻まれた刻印とその刻印を接点に、神経同期ケーブルが体に繋がり、和仁自信が機械の一部になっている異様な光景に理解が及ばず固まっていた。
手に持ったスマホを握り締めながら須美は不安そうに口を開く。
「お、お兄様? それは一体? 痛くはないのですか?」
「うるさい。君は黙って為すべきことをしろ。無駄にしていい時間はないんだ」
心配する須美の言葉を和仁は冷たく急かす。急かされた須美は不満気にしながらスマホを操作する。
瞬間、美しい青菊が咲いた。
神樹によって選ばれた少女たちは勇者システムによってその力を授かる。最も分かりやすいのは見た目の変化。それぞれの勇者はそのモチーフとなる花を象った勇者の衣裳を纏う。
須美の場合、それは青い菊の花であった。
一瞬にて変身を終えた須美を眺めながら和仁は菊の花言葉を思い出した。
——菊の花言葉はろうたけたる思い。ろうたけたるとは洗練された美しさや気品を意味し、そんな言葉は目の前の変身した須美にふさわしい言葉なのだろうと和仁は思う。
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