となりをあるいて
血飛沫と骨折と脳震盪を伴う兄妹のコミュニケーションから次の週末。和仁は駅前のバスロータリーの前に立っていた。
駅の改札口周りに立っているのは電車を使う客の邪魔になると思い、人の少ないそちらに立っていた。
日差しも柔らかい11月。街路時は鮮やかな赤色からくすんだ茶色に変わりはじめ冬の準備をしていた。柔らかそうな羊雲を見上げながら和仁は腕につけた時計の時刻を確認する。
「……少し早く来ちゃったな」
小さく独り言を呟く。呟きは少し肌寒い秋風に乗って消えていく。何となく駅の改札口を定期的にチラチラ見ながら和仁は須美と待ち合わせをしていた。
話は昨日の午後に遡る。
血飛沫を伴った対話の後、和仁は体についた血を洗い流した後で服を着替え、談笑室で須美と話していた。勇者システムで変身する須美と違い、和仁は血に染まった服を取り変えらなければならなかった。
談笑室の柔らかい椅子に座り、二人は面と向かって話しはじめる。
少しぎこちないところを持ちつつも和仁は一生懸命、妹のことを知ろうとする。
「……えっと、その。須美はどんなことが好きなの?」
「え、えっと、その、この美しい国が好きです! 勇者としてもお国を守らねばと思っています!」
出来の悪いお見合いのようであった。互いにどう接していいのかが分からず、しかしそれでも仲良くなろうとはしているものだから互いに距離感を計りながらの対話が始まる。
質問に対して趣味や固有名詞が返って来ると思っていた和仁はお国という単語に面食らう。
よく分からず聞き返す。
「お国? この国が好きってこと?」
「はい! この日本という美しい国を守ろうとする護国思想を重んじてます! そもそも護国思想とはですね——」
元気よく、ハキハキと須美は言葉を並べていく。そのまま護国思想、ひいては国の歴史の話授業が始まる。
自分が好きなものを話す時、誰だって語調は軽やかなものになる。
楽しそうに須美は自分の知っている知識を和仁に披露する。
楽しそうに話す須美を見ながら和仁は少し困った顔をする。
はっきり言ってよく分からなかった。
でも楽しそうに話す須美の楽しそうな様子に何だか自分も気持ちが浮き足立つ。
「それでですね、旧世紀の頃に活躍した我が国の戦艦大和が……、ってお兄様何を書いているのですか?」
上機嫌に自分の好きなことを話していた須美は和仁が時々、自分から視線を逸らし、クリップボードに挟まれた書類に記入しているのを見つけた。
何をしているのかと聞かれ、和仁はクリップボードの紙を須美に見せる。
「あぁ、ごめんね。話はちゃんと聞いてるよ? ただ早めにこの書類を書き終えとこうと思って」
思わぬ書類の登場に須美は少し驚いて書類を凝視する。
そう言って見せた紙は中学校に入学するにあたって必要な書類であった。
「中学校の書類ですか?」
「そりゃあ、僕も来年からは中学生だからね、一応義務教育はやっておかないと、大赦に就職するにしても最終学歴が小学校卒なのは流石に避けたいからね」
小卒という単語に和仁は苦笑しながら話す。
須美は気になったことを聞いてみた。
「お兄様は中学校はどちらに? やはりそのまま神樹館の中等部ですか?」
現在、須美は神樹館の小等部に転入する予定である。つまり来週からは兄妹一緒に通学することができる。しかし和仁は現在六年生、つまり半年もすれば卒業してしまう。
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