ハーメルン
蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~
訪問、或いは謝罪

そして、庭園会を終えたおれは、本来行くはずだった妹を見舞っていた
 
 「で、てって……」
 上手く口が動かせないのだろう。途切れながらそう眼前でベッドに伏せる少女は呟く
 「そう言うな、アイリス。兄妹じゃないか」
 「そう、いいま……す……」
 「酷いな、ホント」
 言いながらおれは、貰ってきた果物の皮を小型のナイフで剥く。正直な話、そこまで今の妹には向かないだろう果実だ。何たって、水分が少ない。熱を出してカラカラの喉には、ちょっと物足りないだろう
 だが、それは仕方ないことである。今の妹は動けなくてベッドに臥せっている訳だ。つまり、まともに食事さえ取れない。そんな状況で、果汁がこぼれやすい果物を持ってくることは、おれには出来なかった
 こぼしてしまっても、生活系水魔法なんてものが使えないおれにはシミ抜きだって出来ない。大変なんですからねこれとシミを作ったら小言を言われるのはおれだ。我ながらセコい保身だが、問題を起こしたくないのだ
 問題を下手に起こしてしまえば、ちょっと過保護なメイド達は、只でさえ火傷痕が弱った心には特攻刺さるとか言って顔の時点で散々な評判のおれを、二度とアイリスに近付けないだろう。そんなことは駄目だから、抑える
 
 おれが妹に会いに来る理由。まあ、そんなものは当然ある
 今の妹は、それはもうぼっちである。友人の一人も居ない、大体ずっとベッドに臥せっている筋金入りのぼっちだ。まあ、ずっと体調崩して寝込んではたまにマシになり、すぐにまた倒れるを繰り返しているのだから当然の話である。親しい友人か家族くらいしか私室にまで行けるわけもないのだから、新たな出会いなんてあるわけがない
 だが、かつてはそうでもなかったのだ。そう、一年ちょっと前くらいまでは、メイドの娘だとかの幼い友人が居た。その母にも、可愛がられていた。今ほどずっと臥せってばかりでも無かった
 
 そのメイドに、誘拐されたのだ。発覚は1日後。即座に探し、数時間で見つかったアイリスは、閉じ込められた事で大きく体調を崩していた
 以来妹は、臥せる事が多くなった。誰も、近付けたがらなくなった。そして、それを痛ましい事があったからと、メイド達は是とした。時間が傷を癒すまで、一人にしてあげるのがメイドの役目だと
 だから、だ。だからずっと、妹を訪ねる。要は下心だ。閉じ籠って欲しくないというエゴが、せめてもと足を向かわせる
 
 少しでも、心を開いて欲しいと。興味を持って欲しいと、下らない外の話をする
 「おはなし、つま……ん……ない……」
 そう言われながらも、ずっと
 
 ……実のところ、未来の彼女の事は知っている。第三皇女アイリスというのは、ゲーム本編でも出てくるキャラクターだから。本編の彼女はやはり体は弱く、けれども本人は寝込みながらも自身の魔法で作ったゴーレムを動かし、偽物の体ではあっても、不器用かつ気の引けた形ではあっても、他人と関わろうとする人間だった
 だから、自分のやっていることに意味があるのかは、良く分からない。ぶっちゃけた話、おれが何もしなくても時間が解決するのかもしれない
 けれども、あの日おれになってしまった本当の第七皇子は、誘拐された日から、自分が消えるまでの一月ほどだけれども、おれと同じことをしていた。だから、続ける
 正直、塩対応に心はたまに折れそうにもなるけれども、下心があるから続けられる

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