幕間:兎から見た馬鹿 2
同意を得ようと振り返ったら、ちーちゃんが傘を剣に見たてて漫画の通りの構えをしながら傘を振っている姿が私の目に映る。
しかも流石ちーちゃん、傘を振った瞬間の軌道が凄く真っ直ぐで、寸分のブレも無かったから本当に漫画の必殺技が撃てそうな良い感じだった。
……アイツとおんなじ感想を持ったって事は、もしかしたら馬鹿が移ったのは私の方なんだろうか?
「さぁさんぼー、お前もコレやってみろよ」
「は!? なんで私がそんな事しなきゃならないのさ!?」
「束、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損、と言う言葉もあるだろう?」
「ちーちゃん待って!? 何時ものクールなちーちゃんは何処に行ったの!?」
私の叫びに口元を隠しながら笑うちーちゃん、普段ペースを握ってる私がこの馬鹿に振り回されてるのが楽しいんだろう、私は全然楽しくない。
しかもこの流れだとやらない方が謎の疎外感まで感じる始末、仕方なしに私はムカつくくらい明るい笑顔を浮かべる馬鹿の手から漫画を取った。
そして其処に書かれて居たキャラクターと同じ構えをし、同じような動きで傘を突き出した、なんで私がこんな目に……。
「が、牙突!!」
「そっから弐式!!」
「えっ? が、牙突・弐式!!」
「はい次参式!!」
「さん、牙突・参式!!」
「最後零式!!」
「牙突・ぜ––––って、何時までやらせるんだよ!!」
いや、言われたままに傘を振り回してた私も悪いけど、コイツ調子に乗りすぎだろ!? ちーちゃんもちーちゃんで途中からお腹押さえながら大爆笑してるし、笑ってないで途中で止めてよ!?
「さんぼー、良い感じの牙突だったぜ!!」
「そっ、そうだな……束、良い感じの牙突だったぞ?」
「あーもー!!」
––––結局、こんなやり取りが家に帰るまで続き、私はぐったりしながら自分の部屋に入ってベッドの上に倒れ込んで疲れを癒すように身体を伸ばす。
そしてふと何気無しに視線を向けた勉強机の上に例のプリクラがある事を思い出し、思わず手に取ってみる。
ちーちゃんはあんまりこういった経験が無いからか、若干緊張が浮かんだ顔。
私はそもそも興味が無かった事と、馬鹿の押しに負けて撮影しただけだからそっぽを向いている。
肝心の馬鹿は、何が楽しいのか満面の笑みを浮かべてピースサイン、しかも私達の間に居てセンターをしっかり陣取って。
ちーちゃんと二人だけなら良かったのにと思い、私は油性マジックに手を伸ばして中央の馬鹿だけ塗り潰そうとしたが、何となくそんな気も失せてしまう。
「…………ばーか」
聞こえるはずも無いのに、思わず屈託の無い笑顔を浮かべた馬鹿に向かって、私はそう呟いてしまうのだった。
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