ハーメルン
逆行した進藤ヒカルが今度は悪役(仮)を目指すようです。【完結】
第四話
●席亭の修さんside
進藤ヒカルクン。第一印象は前髪が金髪の特徴的な子供程度だった。
碁会所。それもこんな──自分で言うのもどうかと思うが怪しげな──場所になんか来るとは思わなかったというのがあって少し驚いたというのもあるが。
それにしたって、物怖じしない子供だった。ウチに通う連中ときたら厳ついやら強面やらの奴も多いのにちっとも怖がったり、挙動不審になったり、顔が引きつる様子もないときたもんだ。
子供だったらタバコの煙だって嫌だろうに、全く気にする素振りもない。
それどころか、ズカズカ店に入り込んで、シレっとしている。更に生意気を通り越して憎まれ口を叩きまくっている始末。なまじっか、口だけという訳ではないのが小憎たらしいったらないのである。
しかし、なぜだろうか?不思議なことに誰一人としてその子供を厭う素振りがないのだ。
尤もその理由ははっきりとしている──どこまでも真っ直ぐかつ、誠実で真摯な碁を打つのだ。
あれだけ口や態度が悪いにも関わらず、それに反比例するかの様に純粋さがあるのだ。時には優しさだって見え隠れする。
どこまでも『碁が好き』という気持ちのこもった打ち方をするのだ。
無論。うっかり甘い手なんかを打った時には、遠慮なくガンガンと相手の石を責め立てるのは鬼じゃないかと思うときもあるのだが、それでも決して相手を容赦なく崖から蹴落とす真似はしなかった。
要は強すぎてまるで相手になっていないのだ。ただし、それを甚振る真似なんかは決してしない。
手加減はしてくれているし、場合によっては指導碁なんかになっている場合すらある。
なのでふと思う。どうしてこんなにひねくれているのだろうか?と。打つ碁と矛盾していることに違和感を感じるのだ。
何か悪ぶっているのは理由があるのかもしれない……と。もしかしたら複雑な事情や環境に置かれているのかもしれない。
しかし、そんな訳ありだったとしても、会ったばかりの子供の闇を突く真似は大人としてブレーキが掛かってしまい、結局は聞けなかった。
ただ……唯一見守ることは出来るのかもしれない。
「進藤!明日!明日も来い!」
「席料は気にするな。負けたやつに払わせるからよ」
「くそ、負けた。んとにガキかよ……」
「誰か強い奴いないか?あっ、おい。あいつに連絡取れ。明日来させよう。修さん電話借りるよ」
「ハイハイ。電話代金は1分につき10円だヨ」
「なんとしてでもこのクソ生意気なガキを倒せ!!」
気づけば、その進藤クンはこの店──『囲碁さろん』の輪の中心となっていた。はじめて来た日から、誘われるがままに毎日毎日やって来た。
お決まりのフレーズとして「明日も来いよ!明日こそ負かしてやる!」という客の声に「やれるもんならやってみれば?ま、ぜってー無理だろーけど」という挨拶をして帰って行くのが常だ。
暇さえあればひょっこりと顔を出す子供。それも口と態度が悪いものの物凄く囲碁が強い。
未だ連戦連勝のままだ。常連の客としてのプライドに火がついたのか、日に日に『打倒クソガキ!』のキャッチフレーズは広まりを見せている。
まず、進藤君が学校だろう時間帯に──普段はパチンコとかしてくるからもっと遅くにくる連中まで集まって──むさくるしい、いい年のおっさん共が頭を突き合わせて真剣にああだこうだと作戦会議をするのだ。
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