ハーメルン
逆行した進藤ヒカルが今度は悪役(仮)を目指すようです。【完結】
第八話

ヒカルが厄介なことになったと思った通りに展開が進む。要は、ややこしいことになったのだ。

奈瀬は完全にヒカルが囲碁の初心者だと思い込んでいる。この誤解をどう解いたら良いかということだ。それも相手は完全に親切心で話しかけてきている。

(あちゃー…こういうときの奈瀬の思い込みは強いんだよなァ…)

取り敢えず、否定しておくべきだろう。少なくとも初心者ではないことは確かなのだから。

「何勘違いしてんのかしらねぇけどさ。俺、初心者じゃねぇし」
「うんうん。けど、ボヤいてたじゃん。対局したいーって。ちょうど、私もそう思ってたんだ。どうかな?」

思いっきり流された。恐らく、向こうは強がりで否定しているとか思ってそうだ。思わずため息をついた。

「それは否定しない。けど、碁会所に行く金は……」
「オッケー大丈夫。おねーさんに任せなさい!じゃじゃーん。マグネット囲碁。これで適当に公園でも行ったらいいでしょ?」
「あー。まァ」

否定し続けるのも面倒だ。久しぶりに懐かしい顔に会えたのもある。対局したいのも事実。このまま流されて一局打てば直ぐに実力に気づいて貰えるだろう。

肯定の返事を聞き出せた奈瀬は、そのまま先導して書店を出て行く。ヒカルも後ろを付いていく形で歩き出す。そのまま暫くして小さな公園までやってきた。

ベンチに隣同士に腰掛けると、間にマグネット囲碁を置く。簡易ながら、これで対局の準備が整った。

「さてっ、せっかくなんだし。自己紹介ね。あたしの名前は奈瀬明日美。ね?君の名前聞いてもいい?」
「俺の名前は進藤ヒカル」
「じゃあ、進藤君。石は何個置く?」
「だーかーら。置石なんていらねーよ。ってか、呼び捨てでいいぜ。君とか気持ちわりぃってば」

初対面だからだろうか?気を遣っての君付けかもしれないが、奈瀬に言われると違和感しかない。即座に呼び捨てを希望する。

そして、ヒカルが心底嫌そうに言ったのが通じたらしい。今度はキョトンという顔をしている。しかし、ふと思いついた様な顔をして奈瀬は口を開く。

「ふーん。じゃあ、進藤って呼ばせて貰うね。あくまでも初心者じゃないって言うのは分かった。けど、私。こう見えて強いよ」

(知ってる。院生だもんな。二歳上だったから今は…中学二年生か…)

思わず言いたくなる気持ちを抑えた。しかし、ヒカルが即座に奈瀬が強いということに対して反論を言ってこなかったのが意外だったらしい。今度は目を瞬いている。

「別に女だからって碁が弱いなんて思ってねーよ。単純に俺が強…──」
「進藤、偉い!分かってるじゃん!」

途端に華やかに笑ってみせる奈瀬。ついでと言わんばかりに背中を力いっぱい叩かれて痛みが走る。

「おい、奈瀬。いてぇって!」
「……アンタ、年下の癖に呼び捨てってどうなの?」

先ほどの上機嫌はどこへやら、途端に呆れ顔になってこちらを見てくる奈瀬に表情が変わりすぎと思いつつも反論する。

「別に。悔しかったら、対局で勝ってみれば?」

ヒカルとしては奈瀬は奈瀬。既に呼び方が定着しているので、今更別な呼び方をするつもりはない。ヒカルが君付けで呼ばれて違和感を感じた様に、『奈瀬さん』呼びなんて気持ち悪いに決まっている。


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