イベント
(ふぅ……)
大和と付き合うことになってから三日後。今日は以前から言われていたイベント当日となっていた。
あたしは今現在、会場で一緒に出演していた早苗さんや瑞樹さんとフリートークをしている最中である。
しかし、あたしは全くそのフリートークに集中できていなかった。
(本当にこの後言わなきゃいけないのかよ……)
既にイベントの大半を消化し、残るはとある発表を残すのみとなっている。そのとある発表というのは、もちろんあたしが付き合い始めたという報告だ。おかげで先ほどから胃がキリキリと痛む。
(プロデューサーに散々文句を言ったけど、やっぱりこの予定を変えてくれなかった)
あれから何度も『言いたくない! そもそもファンが許すとも思えない!!』としつこくプロデューサーに迫ったのだが、彼の答えは決まって『佐藤なら大丈夫』の一点張りだ。
なにが大丈夫なのかさっぱり分からない。アイドルの恋愛は普通御法度のはず。にもかかわらず、大丈夫とはどういうことなのか。
本気で言いたくないのだが、このイベントの最後には『佐藤心から重大な報告があります』と告知済みである。というか、勝手に告知された。
よって、付き合ったという報告はもはや逃れられないことになってしまっている。
「さぁーて、イベントももうすぐ終わりということですが、何やら今日はしゅがはさんから重大な報告があるとのことなんですよね?」
きてしまった。司会進行を務めるアナウンサーの方から話を振られ、あたしはぎこちない笑みを浮かべる。
「えぇ、まぁそうなんですけど……」
「ふっふっふ、しゅがはちゃんの報告にみんな、度肝を抜かれると思うから覚悟してなさい」
早苗さんの言葉に会場にいたファンの方たちが大いに盛り上がった。おかげで、適当に切り抜けようかなと考えていたあたしの計画がパーになった。さ、早苗さんめ……。
「おぉー!! 早苗さんから思わぬ言葉を頂きました。瑞樹さんもこの報告について知っているんですか?」
「もちろん知ってるわよ。詳しくは本人の口からにするけど、とにかくすごい発表だから」
瑞樹さんも、お願いだからハードルを上げるのはやめて!! 益々会場の空気が盛り上がり、どう転んでも言い逃れできない雰囲気が出来上がってしまった。
あたしは心の中だけで頭を抱える。チラッとプロデューサーの姿が見えたのだが、早苗さんと瑞樹さんに対して賞賛の拍手を送っていた。
……後で絶対にぶっ叩いてやる。
「……というわけで、少しだけ引っ張ってしまいましたが、ここからはしゅがはさん、ご本人の口から報告してもらうことにしましょう! それではお願いします」
「は、はいっ!」
司会者の言葉に、あたしは覚悟を決めてマイクを握った。返事をする声が若干裏返ったのは内緒。
早苗さんと瑞樹さんも、流石に少しだけ緊張した面持ちになっている。
「えっとですね、はぁとからの報告というのは……三日ほど前から、とある男性とお付き合いをはじめたということです」
言った、言ってしまった。キャラとは忘れて普通に言ってしまった。会場がシーンと静まり返り、司会者の方も驚きのあまりポカンと口を開いている。
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