ハーメルン
Game of Vampire
2話



「相変わらず悪趣味な館だな。」

彼方に見えてきた月明かりに照らされる建物を眺めながら、アンネリーゼ・バートリは呆れた声色で呟いていた。あれこそがスカーレット家が誇る本拠、『紅魔館』である。昔は紅くてカッコいいとか言っていた気がするが、その度に父上は複雑な顔をしていたものだ。今ならその気持ちが理解できるぞ。さすがに真っ赤に染めるのはやりすぎだ。

「あれ? 門前に誰か居ますね。」

「ふむ、門番かな。」

連れてきた使用人が言うのに、翼をはためかせながら返答を送る。誰も付けずに訪問するのはプライドが許さなかったので、一応世話役として連れてきたのだ。おっとりとした見た目の、父上の代から我が家に仕えている忠誠心抜群のハーフヴァンパイア。……まあ、ちょっとおっちょこちょいなのが玉に瑕だが。

単純な世話役としてはしもべ妖精の方がよっぽど使えるのだが、彼らは残念ながら飛ぶことが出来ない。着陸後にロワーを呼び出すってのは……うん、やっぱりダメだな。供を付けずに飛ぶなんて格好が悪いのだ。

しかし、門番だと? そんなものが居るとは生意気じゃないか。うちの屋敷には居ないぞ。レミリアに負けるってのは癪に障るし、こっちでも早急に雇う必要がありそうだ。

内心で決意しながら門の前に着陸して、赤い長髪の奇妙な格好をした門番に顔を向けた。人間……ではないな。かといって吸血鬼でもない。大陸の方の妖怪か? 少しだけ警戒する私たちへと、件の門番が歩み寄りつつ声をかけてくる。

「どーもどーも、ようこそ紅魔館へ。門番の紅美鈴と申します。」

「これはご丁寧にどうも。こちらがバートリ家のアンネリーゼお嬢様です。今日はよろしくお願いしますねー。」

なんだその呑気なやり取りは。私の連れてきた使用人と同じく、どうやらこの門番……紅美鈴とやらもちょっと抜けているヤツのようだ。やけにふわふわした使用人同士の会話を尻目に、懐かしき紅魔館へと目をやった。

ふむ、記憶よりもやや古ぼけた感じだな。見栄っ張りのレミリアが手入れを怠っているということは、やはりスカーレット家も順風満帆とは言い難いらしい。おまけにここからでもフランの狂気が感じられるぞ。これでは尋常な存在は生きていけないはずだ。

「それじゃあ、お嬢様のところにご案内いたします。こちらへどうぞ。」

「ああ、頼むよ。」

お決まりのやり取りを終えたらしい門番に頷いて、先導するその背に続いて門を抜けてみれば……ほう、やるじゃないか。庭は綺麗に整っているな。ここだけは昔の紅魔館よりも美しいくらいだ。

夏の花々が咲き誇る庭を見物しつつ進んで行くと、大きな玄関の前に仁王立ちする小さな少女の姿が目に入ってきた。肩にかかるかかからないか程度のシルバーブロンドに、私と同じ真紅の瞳。薄紅色のドレスを着ながら、顔には懐かしい勝気な笑みを浮かべている。

言わずもがな、彼女こそがレミリア・スカーレットだ。私の幼馴染で、スカーレット家の現当主。記憶の中の彼女よりも少しだけ大人びた、幼きデーモンロードがそこに立っていた。

薄く微笑みながらの私がレミリアに近付くと、先んじて彼女の方から挨拶を投げかけてくる。うーむ、相も変わらず可愛らしい声だな。その所為で威圧感が半減だぞ。

「久し振りね、リーゼ。」

「また会えて嬉しいよ、レミィ。相変わらず小さくて可愛らしいね。お人形さんみたいだ。」

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