ハーメルン
夜に太陽なんて必要ない
7 長い長い夏休み

久々帰った我が家は、やっぱり安心した。見慣れた廊下に、自分の部屋。
屋敷しもべ妖精のアウラが、とんとんと扉の戸をノックして話す声が聞こえてくる。

「お嬢様、ご主人様がお呼びです」

アウラは私が今まで見た屋敷しもべ妖精のなかでは、何でもできる優等生だと思う。はきはきと話すし、テキパキと家事もこなす。何かをやってほしいと思って呼ぶと、もう先回りしてやっていることも多いいし、本当に凄く働いてくれているのだ。

「分かった。ありがとう」

扉を開け、お礼を言うとアウラはそんな滅相もありませんと言ってまた仕事に戻りだした。
ひとつ残念なのは、服がぼろぼろなことだ。だって新しい服を買ってあげると、彼を自由の身にしてしまう。だからしょうがないことだとは思っている。








父の部屋の扉を数回ノックして、呼びかけてみる。

「お父さん?入るよ?」

返事がないので、少し扉をあけてみると相変わらずの変わった部屋だった。物書きをする机にはもう書くスペースなどがないほど本が積み重なっているし、天井では描かれてある人物像みたいな絵たちがお茶会を開き始めていた。かと思えば、床には変な小さな植物がぴょこぴょこと歩いて移動していて、右の奥の壁は蔦がノキノキと伸びていた。

「何を立ち止まっているんだ?レイラ」

後ろから突然聞こえた声に体を飛び上がらせて後ろを振り向いた。
後ろには不思議そうに、お菓子を抱えている父がいた。

「何って、お父さんに呼ばれたからここに来たんじゃない」

「…あぁ!そうだったな。ほら、早く部屋に入りなさい」

父が優しく背中を押してきて私はあまり乗り気ではなかったが、入るしか他なかった。ふかふかなソファに腰掛けると、父は杖を一振りし、私の前にお茶とお菓子を並べてくれた。

「…それでどうしたんだい?」

「…ん?」

父から出た言葉に私は聞き返した。それは明らかに私の台詞で、私には用も何もなかった。

「私に聞きたいことがあるんだろ?」

「いや…何もないけど……」

「そうかい?そんなはずはないだろう。だってレイラの目の奥にはずっと映ってるじゃないか」

ほらまた意味の分からないことを言い出す。父とはろくに話が続いた試しがない。どうして兄はあんな1時間も2時間も話せるのかが不思議でたまらない。

「……聞きたいこと……あぁ……ペンダント」

私が思い出したようにティーカップから顔を上げると、父は満足気な表情だった。

「どうだい?よかったろ?クリスマスプレゼントにはぴったりだ」

「…うん…まぁね……あれは時計なの?なんなの?」

「あれは時計じゃないさ。時を数えてくれるペンダントだよ。」

いやいや、時間を数えてくれるのが時計なんだって!
私は心の中で、突っ込みながら落ち着きためにお茶を一口飲んだ。

「そんな曖昧じゃなくて、どう使えば正解なのかを教えてよ。」

「レイラは、中に掘られてあった文章覚えているかい?」

「……聞いてないし……」

全くといっていいほど聞いていない父を見て、少し長くなりそうなのでソファーに深く腰掛けた。

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