第4話 ショートランド泊地は「ほうれんそう」が出来ていない
戦艦水鬼は一旦、他の深海棲艦を集めた。
ことのあらましを説明しよう、というわけである。
「――というわけだ。私達の主人は曙、ということにしておいてくれ」
説明を聞き終えた深海棲艦達はいい顔をしなかった。
当然である。
彼女達の提督は宗一郎ただ一人なのだ。
例え演技だとしても、他の者に傅くなど虫酸が走る。
「言いたいことは分かる。私も同じ気持ちだ。だが、今回だけは――」
「戦艦水鬼ちゃん。そこから先は言葉を気をつけた方がいいよ。私、これでも結構“きちゃってる”から」
空母棲姫の艤装が戦艦水鬼に向く。
いつもの彼女とは違い、その声は冷たく静かだった。
……最悪、殺し合いになるかもしれないな。
戦艦水鬼はそのことを少しだけ覚悟しながら、話を続けた。
「今回だけは見逃してくれ。私の発言は、確かに少し迂闊だった。しかし提督からの命令を遂行するには必要だと判断した結果なのだ」
「ふ〜ん……私馬鹿だから分からないけど、提督からの命令なら仕方ないかな」
「……感謝する」
「次はないよ?」
「ああ」
「じゃあ今回は許してあげる!」
その言葉を聞いた後、空母棲姫の顔が無表情からいつもの明るい笑顔に戻った。
「それで、何したらいいのー?」
「元帥と大将をショートランド泊地に送ってくれ。後は向こうの奴らがなんとかする」
「分かった! ってあれ? 戦艦水鬼ちゃんは一緒に来ないの?」
「私は一足先に鎮守府に戻る。もう五時半だ。夕食の用意をしなくてはいけない」
宗一郎の家にいた時から、夕食の用意は戦艦水鬼の当番だ。
それはショートランド泊地に引っ越してからも変わらない。
「それではな。鎮守府で会おう」
戦艦水鬼は足に力を込めた。
武蔵を吹き飛ばした時の軽いものとは違い、本気のそれだ。
向かう先はスーパーである。
「(今日の献立は何にしようか……。
引っ越したばかりでほとんど食材がない。買い足さねばならないな)」
提督の食事を作るのは、戦艦水鬼にとって最も大事な仕事の一つだ。実際のところ今日元帥を襲撃したのも、内地にある品揃えの多いスーパーに行くついでという側面が強い。
戦艦水鬼は溜めた力を解放し、スーパー目掛けて全力の飛翔をした。
◇
――――元帥は考える。
深海棲艦は何かを話し合うために、今この場を空けている。
そのおかげで、元帥はいくらか冷静になることが出来た。
この僅かな猶予の間に何ができるだろうか?
逃げる、という選択肢はない。
あの悪魔じみた索敵能力と速力を持つ奴らなら、例えどこに逃げても一瞬で追いついて来る。
それならば、と。
元帥は己の艦娘で最も怪我が軽い吹雪に無線を飛ばした。妖精さんの力があれば、無線機がなくとも電波そのものを創り出すことが出来る。
『吹雪、聞こえるか?』
『! ――は、はい。司令官!』
『時間がないから手短に言う。僕達は拉致された。行き先はショートランドだ』
『分かりました! 助けに行けばいいんですね? 吹雪、頑張ります!』
『違う。僕達の救出は不可能だ。戦力を無駄に消費することはない。僕達が戻らなかったら、その時は見捨てて欲しい』
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