ハーメルン
魔軍参謀の憂鬱
やるべき事

 ムシ使いの集落。その外周部。
 先刻の魔軍との戦いで勝利を収めたムシ使いの兵達は労いを兼ねた補給を行っていた。
 ムシ使いは通常の人間の数倍は食事を取る一族。常に魔軍の警戒を行っている彼らもこういった休息の際に集落から運んできた食料を一心不乱に口にしていた。

「おー今日の雑炊も出汁が利いてて美味えな。給仕係はいい仕事してやがる。こういう時の食事には最適だな」

 そして他のムシ使いと同じく料理を口にかっ込んでいくのは獣の王ガルティア。
 相変わらずの味の批評もそこそこに彼は食事を取りながら思考する。

 ……余裕がねぇな。

 ガルティアは周囲の兵――いや、集落の現状をそう評する。
 兵達は魔軍を今日も追い返す事が出来て高揚している者がほとんどだが、全体を見てみるとちらほらと下を向いて陰鬱とした表情の兵がいた。
 これから時間が経つにつれて更に半分の兵はああいった状態になるだろう――現実を思い出して。

 ――彼らは皆一様にとある思いを抱いていた。

 それは、この戦いがいつ終わるのか、ということだ。
 魔軍がこの地域を侵略しようと攻めてきてもう十年以上経つ。
 最初は魔軍相手に勝利を収め続けていて皆が感じていた。この戦争には勝てる。魔物が何するものぞ、怖れる事はない。
 しかしその状態が一年、二年、五年と経ったらどうか。戦争が始まった当初と同じ思いを今も抱けるのか。

 ――答えは否である。今の兵達は常に不安を内心に抱えていた。
いくら魔物達を追い返しても、数を減らしても、魔軍は諦めなかった。数がある程度減ればまた援軍を送ってくる。
 彼らは魔軍を舐めていたのだ。奴らの数を把握出来ていなかった。
 自分達の仲間はこの地域にいる精々数万という数だが、魔物の数はそれこそ世界中に存在する。極論を言うなら魔軍と戦うという事はそれら全てを敵に回す可能性があるということ。総力戦など行われた日にはすり潰されてしまうだろう。

 故に魔軍相手に使える戦術――いや、戦略は一つ。彼らの旗印である魔人、そして魔王を倒すことだ。それだけがこの戦争に勝利する一番の方法。
 しかし、それが可能なのかと聞かれれば皆首を傾げるだろう。

 ……やるしかねえけどな。

 ガルティアは、集落最強のムシ使いである。獣の王の役目は集落を守ること――それだけだ。他の道はない。それにガルティアは魔軍を倒すことこそを難しいが、勝利する事も不可能だとも思っていない。いや、思っていたと言うべきか……。
 魔人なら倒せた。彼らも絶対無敵というわけでもないらしい。自分なら倒せる。なら魔王がここに来てくれさえすれば――

 唯一の勝ち筋がそれだ。そしてそれ故の首刈り作戦。
 ひたすらに将を叩いて奥にいる奴を引っ張り出す。しかしそれも難しくなってきていた。
 それは兵の士気もそうだが、ムシ使いにとっては何よりも物資、食料の問題があった。
 これだけ長く戦いが続けば当然、食料等の物資もそれだけ消費する。普段から食料を溜め込んでいるムシ使いの集落だが、それは沢山食べるからこそ。ムシを使って戦い続ければそれ以上に消費するし備蓄も無くなっていく。集落内の人々はまだ気づいていない。長老達がそれを知る者達に緘口令を敷いているからである。だが見えない所で影響は出ている。兵達の食事も少しずつ減っている。

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