獣の王
魔人レオンハルトと獣の王ガルティア。
両者の最初のぶつかり合い。それは当然魔人であるレオンハルトに軍配が上がった。
「ふっ――!」
「――っ!」
レオンハルトの持つ魔剣――オル=フェイルが人間ではありえない程の速度でガルティアを狙って振られる。
ガルティアはそれを何とか自らが持つ長剣で防いだが、魔人の恐るべき膂力を完璧に受け流す事は出来ず、身体が流れる。
ガルティアは決して剣が不得意な訳ではない。むしろかなりの腕を持つ天才である。自分より強い剣士には出会った事がなかったほどだ。仮に彼がムシ使いでなくてもガルティアは集落で一番の戦士であった事だろう。
そのガルティアが剣技で押される。それは人間と魔人という生物としての格の差も当然存在する。
――しかしそれよりも大きな理由があった。
たとえガルティアが天才でも、レオンハルトは剣術において最早伝説。これからの歴史でレオンハルトに剣で並ぶ者は現れないかもしれない程の規格外の剣の腕前だ。
その才能の差をガルティアは知らない。しかし剣士としてその事実を本能で感じていた。
「――ちっ! こりゃあ剣だけじゃキツいな……!」
「ククッ……! なら諦めてもいいんだぜ――ッ!」
レオンハルトはその剣を本能で、深い部分で理解して振るう。魔人となり剣の才能に目覚めた彼は剣を強い相手に振るう事に魔人としての血、本能が最も強く呼応する。
剣に触れる事の嬉しさ。そしてそれで相手を斬る事にこの上ない喜びを感じて、顔には楽しそうな笑みが浮かんでいる。
その剣をその身で感じ取るガルティアは、これは剣だけで相手するのは馬鹿らしいとあっさり諦める。彼は剣の才能こそあるが、それを自分の一番としていない。ガルティアの本領はそれではないのだ。
「はっ! 言っただろ! 剣だけじゃキツいってな――ッ!!」
「ッ――!?」
突如、ガルティアの身体から炎が吹き出る。剣で鍔迫り合いを演じていたレオンハルトに炎が襲いかかった。
間髪入れず、ガルティアはムシによる攻撃を続ける。
「お前ら、頼むぜ――!!」
『――――!!!』
ガルティアの中にいるムシ達が一斉にその意思をガルティアに伝えた。
次の瞬間、レオンハルトに細い糸が絡みつく。
「な、んだこりゃ……!?」
身体に絡みついて動きを阻害しようとする糸を、レオンハルトは腕で断ち切ろうとする。
しかしその糸は粘着性と弾力性が強く、魔人としての膂力を持つレオンハルトですら容易に抜け出す事が出来ない。煩わしく思い、レオンハルトが剣で糸を切断しようとするが――その隙はガルティアが攻撃するには十分な隙だった。
「喰らいな――」
「――ッッ!!」
ガルティアの身体からムシが大量にその力を発揮する。
毒針、炎、カッター、触手、酸弾、レーザー、爆弾――その他多くの攻撃がレオンハルトに降りかかり、その殆どを受けた。
爆弾により一時的に辺りに煙が上がる中、ガルティアはそこで攻撃をやめることなくそのまま煙の中に突っ込み――そして飛んできた斬撃をムシの能力で防御した。
しかし盾は斬撃を完全に防ぎきる事が出来ずにガルティアの身体に薄い傷を刻んでいた。
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