カミーラの命令
「……俺だ、入るぞ」
ノックを二回し、部屋の外から声を掛け、扉に手を掛ける。
部屋に入ってまず目に飛び込んでくるのは、自分の部屋よりも少しだけ豪奢な部屋の作り。家具やインテリアには宝石をあしらった物が使われており、埃も全く見当たらない清潔さ。
生活感があまり見えてこないくらいには整っている。おそらく定期的に掃除させているのだろうが、ここの部屋の担当はいつもえらく緊張しているだろうなと思う。
そしてそんな部屋の中心。格式張ったそれなりの大きさの椅子に座っていたのは当然、この部屋の主。
「……遅い、な」
「……色々と用事があってな。悪い」
自分と同じ魔人四天王にしてプラチナドラゴンの魔人――カミーラだ。
彼女はその美しい容貌と黄金の眼をこちらに向けて嫌味をチクリ。だが、特別怒っているようには感じない。
「……座ってもいいか?」
「……好きにするといい」
カミーラに了承を得ると丸いテーブルの正面、彼女と向かい合うような形で腰を落ち着ける。そして座り心地のいい椅子の感触にびっくり。なんで同じ魔人四天王なのにこうも自分の部屋と違うのか改めて疑問を感じる。
しかしそれは後で考える事にする。俺は軽く息を吐いて、カミーラに口を開いた。
「……それで、どういった用件――いや、違うか。命令の内容を聞いてもいいか?」
俺は普段より少しだけ物腰を柔らかくそう尋ねる。
――やっぱり、こいつの相手は緊張するな……。
魔人になって魔物社会にはそこそこ慣れたつもりだ。部下に命令する事も慣れたし、他の魔人とも――まぁ、仲がいいとは言えないが普通に話す事が出来る。
だが、カミーラだけは別だ。
ケイブリスに言わせれば同じ魔人四天王でどちらも畏れ多い、との事だがとんでもない。
同じ魔人四天王といっても自分はまだ魔人になったばかりの新参者。年齢もまだまだ人間と変わりない。
しかしカミーラは既に千年以上を生きている。そこには上級魔人としての圧倒的な格があるように感じられた。
それにこちらは相手の同胞である仲間の魔人――ギリウムを決闘で殺している。こうやってカミーラの命令を聞こうとするのもその件に対する謝罪としてカミーラに出された条件の様なものだからだ。
そんな相手に普段とまったく同じ様に接するのは、少なくとも今の自分には出来そうもない。何を考えているのかもよくわからないのが更にそれを増長させている。
「…………」
「…………」
故に、こうやって目蓋を閉じたまま無言でいられるととても困る。
何か考えているのだろうからこちらから催促するのもよくない。しかしじっと待っているのも居心地が悪い。
「……………………」
長い。長過ぎる。お前まさか命令の内容考えてなかったんじゃないだろうな。それとも寝てるのか? いい加減黙ってるのが苦しくなってきたぞ。
何か適当な事でも考えて時間を潰すか……そういやずっとこうやって目を閉じたままだとキス待ちにも見えなくもない。いきなりキスしてやったらどうなるだろうか。頬を染めて初心な反応を返すのか、それとも何をするんだと怒って突き飛ばしてくるか……十中八九後者だろうな。
こういうやばい思考ってたまにあるんだよな。ここで何の脈絡もなくいきなり殴ったら相手はどんな反応をするんだろう、みたいなアレだ。
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