ハーメルン
遥かな、夢の11Rを見るために
ブライアンのヌイグルミ



 唐突だが、私は現在、お風呂にて死に体になっている。

 理由は言わずともわかるだろう、生死の境を彷徨ったからだ。坂路に次ぐ坂路、トレーニング、地獄の併走、思い出すだけで目が回る。

 あの体育会系でバリバリの叩き上げ上等! のバンブーメモリー先輩ですら音を上げてしまうようなキツいトレーニングを今の今までこなしてきた。

 ミホノブルボン先輩に義理母が加わったトレーニングなんてそりゃもう、壮絶ですよ。

 私の身体は限界値を超え、さらに、無理矢理いじめ抜いたのだからもうボロボロである。


「あ〜…気持ちいいんじゃ〜…」


 お風呂に浸かる事が、ここ最近では唯一の癒しだ。ボロボロになった身体もトレセン学園が誇る、大浴場のお風呂に入れば多少なりともマシにはなる。

 そんな中、私が気持ちよくお風呂に浸かっていると、何やら、大浴場の扉が開き、横にいきなり誰か浸かってきた。

 あふん、油断していた。

 そうでしたね、私だけ貸切のお風呂なんてありませんよね、そりゃトレセン学園が誇る巨大浴場だもの、誰か入って来ても不思議ではない。

 私は横に入ってきたウマ娘に視線を向ける。

 扉から入って来た時は湯気で姿がはっきりしなかったが、だんだんとその姿を目で確認することが出来た。

 鼻のあたりに白いシャドーロールが付いていて、なおかつ、長くて綺麗な黒鹿毛の髪、それを見た私は隣に入って来たのが誰なのかすぐに察した。

 そして、察した私を見て、彼女はクスリッと笑うとこう話をしはじめる。


「随分とボロボロじゃないか、アフトクラトラス」
「…そりゃ、あれだけトレーニングさせられたらそうなりますよ、ナリタブライアン先輩」
「ははは、そうか、確かにそうだな」


 そう言いながら、私の横にやってきた彼女は納得したように笑い声をあげる。

 この綺麗な身体をした先輩はシャドーロールの怪物と名高い、ナリタブライアン先輩である。

 ちなみに胸も私同様に怪物並みなので、侮るなかれ、これはもはや凶器である。

 私も人の事は言えないのだが、まあ、そこは良いだろう。

 すると、ナリタブライアン先輩は湯船から立ち上がると、私の肩をポンと叩くとこう話をし始めた。


「今日も死ぬほどトレーニングしたらしいな? 強者が増えるのは嬉しい事だ。私の姉貴もそうだが、お前と私はどこか似たもの同士かもしれないな」
「うーん、言われてみればそうかもしれませんね、姉弟子は桁違いの化け物ですし、でも、ブライアン先輩、せめて、前は隠してください前は」


 そう言いながら、私は前を全く隠そうとしない漢らしいブライアン先輩に突っ込みをいれる。

 尻尾が左右に揺れているのを見る限り上機嫌なのはよく伝わるのだが、私としてもこの状況は反応に困る。


 ナリタブライアン。

 史上5人目の三冠ウマ娘であり、クラシック三冠を含むGI5連勝、10連続連対を達成したのは有名な話だ。

 シャドーロールの怪物と言えば、この人というくらい、ミホノブルボンの姉弟子かそれ以上に化け物じみたウマ娘である。

 クールな不良や一匹狼的な人物が口に草をくわえるのはよく見かけるが、このブライアン先輩もよくそれをやっている。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析