ハーメルン
遥かな、夢の11Rを見るために
夢の中で




 これは異世界から受け継いだ輝かしい名前と競走能力を持つ“ウマ娘”が、遠い昔から人類と共存してきた世界で活躍するお話。

 そんな彼女達が通うトレセン学園、その門を新たに開こうとする一人のウマ娘がいた。

 その名は…。


「…はぁ…。憂鬱だなぁ…ほんと」


 アフトクラトラス。

 それが、彼女の名前である。ギリシャ語で“皇帝”という意味だ。

 皇帝の名を冠し将来を渇望されている彼女はこのトレセン学園の門を叩こうとしていた。

 だが、彼女は顔を引きつらせたままどうしようかと現在、生徒会室の前で右往左往している最中である。


 癖毛のあるダークブルーの髪の中に混じるパールブルーの毛先。そして、青鹿毛特有の黒く鮮やかな尻尾に耳。

 綺麗にぱっちりとした二重の目に、人形の様に小さく整った容姿に綺麗な白い肌。そして、やたら自己主張が激しい胸。


 そう、これが私、アフトクラトラスである。


 こうなった事の経緯を説明すると、私はいわゆる競馬をこよなく愛する普通の社会人だった。


 私の好きな馬は古くはテンポイントやトウショウボーイ。キーストン、シンザン、そして、時代を少し下ればサクラスターオー、ライスシャワー、ナリタブライアン、ミホノブルボン等、挙げれば多分キリがないだろう。


 もちろん、彼らのレースに足を運んでは馬券を握りしめて鉄火場である競馬場で彼らの勇姿を見届けた。

 そうしていつも、競馬場に足を運んでいた私は競馬でスターホース達に夢を与えられ、そして憧れていた。

 瞳を閉じれば、あの名馬達の姿が今でも目に浮かんでくる。夢の11Rをいつも想像していた。

 大好きな騎手もたくさん居て、その騎手がG1をはじめて取り、嬉しさから涙した日には私も何故か自然に涙が溢れ出てきた。

 そんな私は長年働いてきた会社を退職し、ふと、いつも馬券を買っては馬を応援していた競馬場に足を運んだ。

 その日の競馬場は賑やかで、どこか、自分がいつも馬券を握りしめて訪れていたあの日、あの時の情景が目に浮かぶようだった。


 できるなら、もう一度彼らに会いたい。


 競馬で行われているレースを眺めていた私はそう願った。

 叶うはずもない願い、取り組んでいた仕事に対しても情熱を注いでこの競馬場で走る馬達のように全力で毎日を私も駆けていた。

 そうして、私は静かに競馬場で目を瞑る。


 そして、次に目を開けたその時にはーーー。


 私は一人、青空が広がる広い草原の中に立っていた。

 気づけば、耳に尻尾も生えていて、歳を取っている筈なのに顔を触れば肌はすべすべしていた。


 なんと若返っていたのである。

 更に付け加えるならば、肝心な下部のところは綺麗さっぱり大事なものがなくなっていた。


 状況が分からぬまま、私は草原で、記憶がフラッシュバックする感覚に襲われた。

 それは、自分は一体何者なのか? そして、この世界はどういった世界なのか?

 まるで、記憶が流れ込んでくるような不思議な感覚だった。

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