ハーメルン
ただそれだけの話
声のデカい人の酒が不味くなるだけの話

 あっはっはと豪快に笑う坂本に相変わらずだなと桂も笑う。
「どうせ、いつもの店がまだ開いていなくて困っていたんだろう。俺の行きつけが近くにある。どうだ久々に一緒に飯でも」
 桂の申し出に暇を持て余していた坂本は喜んで食いついた。
「酒も旨い店だともっと最高やき」
「安心しろ。そこの店主はいい目利きだ。いい酒しか仕入れん」
 そうして桂が案内した店はしかし、暖簾を出しておらず『準備中』の看板まで戸に立て掛けてあった。かぶき町にある薄汚れたビルの一階にある小さなその店は飲み屋のようで、店先の黒板に乱暴に書かれた文字によると開店時間はまだ一時間以上は先である。
 それなのに桂は、平然と扉を開けずけずけと中に入っていった。
「おいおい! まだ暖簾は出してないだろ!! って、なんだ桂さんか! らっしゃい!」
 強面の男の怒りに満ちた濁声は、桂を見るやいなやころっと愛想の良い接客の為の声に変わった。
「いつもの蕎麦でいいですか? お連れさんは?」
「ああ、頼む。坂本、お前はどうする? 腹は減ってるのか?」
「ん、あぁ、じゃあせっかくやき何か頼むぜよ。メニューはあるがか?」
「あぁ、ただの居酒屋と侮るなよ。ここの店主の料理の腕はなかなかだ」
 店の奥側へと桂は向かい、定位置らしき場所に慣れた様子で腰掛けた。その席は出入り口は桂から視認できるが、観葉植物や衝立などが邪魔をして、奥に座る桂のことは逆に見辛い。そして、裏口に近い席だった。
「前々から思ってたけんど……、おんしらはわしのことを人を誑かす性悪男みたいに言うが、おまんらも人のことを言えんぜよ」
 観葉植物も衝立もよく見れば他の内装と比べれば新品だと分かる。全て桂のために用意されたのだろう。
「宇宙規模で性悪な商売をしているくせに、よく言う」
 笑いながら桂が差し出したメニューを坂本は受け取った。
「相変わらず逃げ回っとるんか。幕府のお膝元で鬼ごっことはおんしも酔狂じゃの。京で隠れんぼしてる奴の方がまだマトモじゃ」
「隠れんぼも鬼ごっこも大して変わるまいよ。相手がアレならどちらにせよ捕まる気がせぬわ」
 桂が視線を遣った先に坂本も目を向ける。その先のテレビ画面では、最新型で販売前から話題になっていたゲーム機の危険性と、その危険性が発覚した某ゲーム店でのゲームバトルについて言及する番組が放送されていた。
「それにどうやらあいつも隠れんぼには飽きたらしい。あまりに見つけてくれぬから、自分から出てきたようだ」
 その言葉に、メニューから目を離し坂本は桂のことを見た。
「今度の狙いはおそらく真選組。あれが半端な生温い攻めをするはずもない。おそらく潰すつもりだろう」
「……金時は、相変わらずながか」
「あぁ。相変わらず大馬鹿だ」
「そうか、」
 あの宇宙一馬鹿な侍は、相変わらずなのか。足が千切れようが腕が千切れようが、どんな無茶をしてでも、見知った人間を決して見捨てられない不器用な男は。まさに、大馬鹿者である銀時は。
 自分が宇宙に行ってる間も変わらぬままであるのは、坂本にとって嬉しくもあり、心配でもあった。生きるのに、あの性分は苦しい道を選択しすぎる。
「……いい酒があるのう、この店」
 悩んだ坂本が指先でどちらを頼むか神頼みに任せ始める。しかしその時店主が蕎麦を持ってきて、結局酒は坂本にも神にも選ばれること無く、店主のお勧めの一本が用意されることになった。

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