白/虚無
雲間の巨艦は、その全貌を隠していることもあって、巧の距離感を幻惑した。近づきすぎた、と感じたのは、舷側が一斉にきらめいたときだった。
「ふせッ」
膝に抱えたルイズの頭を押し込んで、巧は自分も身を沈めた。ジェットスライガーの全体に小さな激発音が弾ける。しかし、当初想定したクリティカルな一撃は、いくら待っても訪れなかった。
「油断しすぎだ、相棒!」
空中で正しく盾を構えたオートバジンが叫んだ。
「飛行機は無くったってドラゴンは飛んでるんだぜ。対空攻撃の手段くらい備えててしかるべきだろうが?」
「悪いな。また助けられちまった」
「いいってことよ」
オートバジンは嬉しそうにランプを点滅させて、自身も盾から火線を伸ばした。そのボディに火花が散る。巨艦が近づいてきていた。
「だが相棒、このままじゃジリ貧だぜ。策はあんのかい?」
「あるわ」
弾丸の死角に身を縮めたまま、ルイズが口を開く。
「あんだって?」
「あるって言ったの! ねえ、これでも私は元マンティコア隊隊長の娘なのよ。戦の心得だって無いわけじゃないんだから。この船を『レキシントン』の真上に持って行きなさい」
「真上だと?」
「いいから! そこに死角があるの! どんなに仰角を取ったって、真上に砲は向けられないわ」
巧が口を開きかけたとき、再び散弾が周囲に無数の火花を散らした。議論している暇は無い。
「くそ、信じたからな」
「もちろん!」
巧はジェットスライガーの機首を持ち上げた。散弾の雨を縫うようにして、『レキシントン』の死角を目指す。ミサイルはもう無い。ジェットスライガーの砲はこれほどの巨艦を相手取るにはやや不足。と、くれば選択肢は強行着陸くらいのものだが……。
しゅうっ、と白い煙が視界を横切った。振り向いた瞬間に、煙の主は視界の端から消える。
「こいつは……」
オートバジンの声に、奇妙な響きが混じった。白い影が煙を噴出しながら、一直線に飛ぶファイズに寄り添う。
巧は空を飛ぶライダーの姿を幻視した。それが幻でないと理解できたのは、白いライダーのフライトユニットから発射された光弾を、反射的に回避したときだった。本物の破壊力が持つ圧がある。
「ちょっと、なんなのよ! あれも、あんたの世界から来たヤツなの!?」
「わからねえ! 初対面だ!」
ジェットスライガーを急加速させる巧を、オートバジンが覗き込む。
「相棒、マジで言ってんのか? ありゃサイガじゃねえか。天を司る帝王のベルト……」
「なんだと……」
BRATATATATATATAT!
オートバジンが空中を駆けるライダーに向けてぶっ放す。とにかく、サイガとやらは、今は敵だ。巧は片手でルイズの頭を抑えながら、ファイズフォンを抜いた。
【BURST MODE】
空を飛びまわるサイガを、三点バーストのエネルギーが狙った。しかし、乗り物が違う。速度はともかく、ジェットスライガーには小回りが――。
「きゃ!」
咄嗟に機体を捻った拍子に、ジェットスライガーに砲の一撃が直撃した。
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