灰色の眠り/功名が辻
「それじゃ、古着と喋る馬だけ買って、帰ってきたの?」
「喋るだけじゃないわ。めちゃくちゃ速いのよ」
ルイズは得意げに言った。街から帰ってきた夜、キュルケは自分も紙袋を手にルイズの部屋に押しかけてきたのだ。
「ふーん。まあいいわ! ダーリン、あたしも服を買ってきたの! ボロボロになったのと、そっくりな上着よ。一から仕立ててもらったんだから!」
「いらないわ。間に合ってるもの」
巧が口を開く前に、ルイズが言った。
「なーんであんたが答えるのよ!」
「今日! 私はタクミの服を新調したの。それにこれから来るのは夏! そんな厚手の上着着てたら、暑いだけでしょ」
「あーら、夏が過ぎたら来るのは冬よ。今そろえておいてなにが悪いの?」
二人はにらみ合った。同時に杖を抜きかけたその時、大地が振動する。
「地震か?」
巧が色めきたった。地震だとすれば、かなり大きい。
しかし、キュルケの伴ってやってきたもう一人の少女が、首を振った。
「違う」
少女は小柄な背丈よりも大きな杖で、窓の外を指した。
「ゴーレム」
なるほど、外には巨大な土人形が歩いている。その肩に、黒いローブの影。
土人形は、拳を振りかぶった。あれは、見覚えがある。石造りの建物は、確か――。
「宝物庫が!」
ドォン!
宝物庫が殴りつけられ、その壁が粉々に砕け散る。
「あんな巨大なゴーレムを操れるなんて……トライアングルクラス以上のメイジじゃなきゃありえないわ」
「トライアングル……?」
「すごく強いメイジよ! 急がなくちゃ!」
飛び出しかけたルイズの肩を、巧は捕まえた。
「どこに急ぐってんだよ!」
「ゴーレムを止めるのよ!」
「無茶言うな! つぶされちまうぞ!」
「だってこのままじゃ、宝物庫が荒らされちゃうわ!」
ルイズの言葉に、キュルケが首を振った。
「もう遅いわ」
巨大な土人形は、任務を終えて、ゆっくりと宝物庫を離れていくところだった。どこまでも歩いていきそうなその姿は、しかし、何歩目かでふっと崩れて、消えた。
『黒のベルト、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』の犯行声明が発見されたのは、翌朝のことだった。
◆
「ミセス・シュヴルーズ! 当直はあなただったのでしょう! これは職務怠慢というものではありませんか!」
宝物庫に集まった魔法学校の教師たちは、“責任の所在を明確にするため”、学級会を始めつつあった。巧がいつもいじめられてきた、あれだ。こういうのは、どこの世界でも同じらしい。
ルイズとキュルケ、タバサ(後からキュルケに紹介を受けた)に巧は、第一発見者として朝から宝物庫に集まっている。
(当直って、そんなに大事なのか?)
隣のルイズに小声で尋ねる。ルイズも小声で答えた。
(形骸化した職務よ。まじめにやってる教諭なんて、ほとんどいないわ)
ルイズの言う通りらしい。遅れてやってきたオールド・オスマンがそこを突くと、教師たちは静まり返ってしまった。
「で、犯行の現場を見ていたのは、誰かね?」
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