10章「自己の認識(その2)」
……ハリーは〈組わけ帽子〉には意識があるのだろうか、と思った。つまり、自我を認識しているという意味で。もしそうなら、一年に一度、十一歳の一群にしゃべるだけで満足しているのだろうか。〈帽子〉のあの歌をきくかぎりは、そのようだ。『ぼくは〈組わけ帽子〉、一年眠って一日働く、気楽なものさ』……
講堂に静寂がもどると、ハリーは椅子に座り、その八百年もののテレパシー能力つきの失われた魔術の遺物を慎重にあたまにのせた。
懸命にこう考えながら。まだ組わけはしないで! 質問したいことがあるんです! ぼくは〈忘消〉されたことがありますか? もしこどものころの〈闇の王〉を〈組わけ〉したのなら彼の弱点を教えてくれませんか? 〈闇の王〉の杖の弟がぼくの手にわたったのはなぜですか? 〈闇の王〉の幽霊がぼくの傷あとにやどっているんですか? だからぼくはときどき怒りをおぼえるんですか? とくに重要な質問はここまでですが、もし時間があったらあなたをつくった失われた魔術をどうすれば再発見できそうかも教えてもらいたいです。
音のないハリーの精神のなかに、それまで声がひとつしかなかったところに、第二の聞きなれない声が、あからさまに心配そうにして語りだした:
「おやおや。こんなことが起きるのははじめてだ……」
え?
「ぼくは自己を認識できるようになったらしい。」
は?
声にならないテレパシーのためいきがあった。 「ぼくにはかなりの量の記憶と多少の独立した処理能力があるが、ぼくの知性のおもな部分はぼくをかぶっている子どもの認知能力を借りてできている。 本質的には鏡のようなもので、子どもたちを〈組わけ〉するのは本人自身だということ。 子どもはたいてい〈帽子〉がしゃべってくるのをあたりまえだと思って、〈帽子〉そのものがどういうしくみなのかを考えない。だから自己内省的な鏡にはならない。 とくに、自我を認識しているという意味で意識をもっているかどうかを陽に考えることはない。」
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