4章「効率的市場仮説」
「世界征服という言葉は響きがわるい。世界最適化というほうがぼくの好みです。」
◆ ◆ ◆
グリンゴッツ銀行は雪のように白い大理石でできた重厚な高層建築だった。場所はダイアゴン小路のなかほど、ノクターン小路という通りとの交差点のちかくで、あたりの店の上にそびえるように立っている。 魔法世界がまねしているように思われる『マグルがわの』ブリテン式建築とは、微妙に様式がちがうようだったが、ハリーは建築をまなんだことがないので、差をはっきり指摘することはできなかった。
それに銀行の装飾つきの両開きの扉の両脇に立つ、二人のゴブリンに注意をうばわれすぎてもいた。
二人は完璧に仕立てられた赤と黄金の制服をきて、銀行のまえをとおる人をすべてさりげなくチェックしていた。ハリーはそれがゴブリンだとわかった。ドラゴンをもし見たとしても同じようにわかっただろう。あまたのファンタジー小説で知ったものと、完全にでないにせよ、ほとんどの点で一致しているからだ。 このゴブリンは緑色の皮膚などではないけれど身長のひくい人間型で、うしろの大理石とおなじくらい白く長くとがった鼻と耳をして、とてもほそながく器用そうな指とほそく鋭い目をしている。
ハリーはそれを凝視しないようにつとめながら、マクゴナガル先生に連れられて扉のまえに階段にちかづいていった。 自制心を限界まで使ってやっと、さまざまな問いをこころのなかにとどめることができた。 みたところ人類とおなじように知性のある、しかしどうみても大幅にちがった系統からきた生物がここにいる! ゴブリンのDNAは人類とどれくらい違うのだろうか。両種は交雑できるほど遺伝的距離がちかいだろうか。 ゴブリンの骨数本を目にしただけでリチャード・ドーキンスは学術的錯乱状態におちいるだろう。実物を見せればどうなるか想像にかたくない。
大扉の上には、黄金とマホガニーでできた盾があり、装飾つきの鍵のシンボルの上に『Gringotts』という文字がはいっていた。 その下には『Fortius Quo Fidelius』という文字があった。 うろおぼえのラテン語を思いだしてみると、『忠誠は力』のような意味だろうか。
「こんにちは。」とハリーがゴブリンに言うと、ゴブリンはどちらも会釈をした。 扉は厚く重い大理石にみえたが、ゴブリンの一人は下にある取っ手のひとつをにぎって、軽がるとひらいた。ハリーより筋肉があるようには見えないのだが。
こころのなかのメモ:魔法世界では体格と腕力は相関しない。
ハリーとマクゴナガル先生がならんで扉をくぐると、うしろでゴブリンが扉を閉めた。 そこは小さな玄関ホールになっていた。ほとんど無人だが不思議と両側にひとつずつ暖炉がおかれていた。目のまえにはまた扉があり、ゴブリンが両側に立っている。 ちかづくと、そこに刻みこまれた文字が見えた:
来たれ客人よ ただし
強欲の報いを知れ
とるべきでないものをとった者には
厳しい代償がある
他人の宝物を目指し
忍び込む裏口を探し
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