ハーメルン
漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)
1章 王都 ヤルダバオト編ー5
町の間を縫うように走っていく。モモンとかいう冒険者が齎した通り、ゲヘナとかいう炎の壁の中には悪魔たちが犇めき合っていた。走りながら後ろをちらりと見ると、プレートメイルに包まれた男──というにはまだ早いか──クライム君が追従している。ロックマイアーは見えないが、周囲を警戒しながら追従していくれているはずだ。
目指すは倉庫区中央付近にある住民が捕らえられているであろう倉庫。王女付きの騎士であるクライム君が選ばれるには少々酷な位置にあると言いたいが、その王女であるラナー殿下が直に決められた事なので誰も口を挟まなかった。かなり大切にされているという話だったが…何か裏があるのかもしれない。
(とはいえ、好きあってる風の二人の話だ。突くだけ野暮だろう)
脳裏に、先ほど見つめ合って微笑み合う二人の光景が浮かんだ。信じ切っている男女のそれ。とすれば…
(わざと危険な場所に行かせて功績を積ませる腹積もりか、大方その辺りだろうな)
危険と言うならこの炎の壁の内部は全て危険だ。どこに敵がいるか分かったモノではない。今のところ上手く避けられては居るものの、一度敵と会えば──この人数だ。さほど時間がかかることなく数で牽き殺されてしまうだろう。
(たしか地図ではこの先の…あれは!?)
目的地までの最後の曲がり角を曲がった時だった。目標としていた倉庫の屋根の上に奴を見つけた。見つけてしまったのだ。
「止まれ!」
小さな声で静止を促す。二人は奴にまだ気づいていないのだろう、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「奴が──シャルティア・ブラッドフォールンが居る。お前たちは先に行け。俺は後から…なっ!?」
足止めしている間にクライム君たちを先に行かせようとした時だった。
気合一閃。
まるですぐ近くでやっているかのような強烈な剣戟音と共に来る衝撃波。一流の一流たるその気迫。あれが、イビルアイという冒険者が言っていた、ヤルダバオトを追っているモモンという男か。
己が全力を乗せた一撃では小指の爪を折ることすら出来なかったというのに…
「あれが…真の実力者ってヤツか…」
ただの一撃で、あの化け物を吹き飛ばしてしまったのだ。
「い、一体何が起きたんですか!? あの黒い鎧の人は、いったい…」
「恐らく彼が話に出たモモンという冒険者だろう。凄まじい一撃だ…セバス様とどちらが強いかな…」
しかし彼はなぜここに居るのだろうか。ヤルダバオトは一体どこへ行ったというのか。その疑問の答えを持つ当の本人はこちらに気付きつつもこちらに向くことなく、奴が吹き飛んでいった瓦礫の方を見つめている。
「すまない、俺の名はブレイン・アングラウス。君は漆黒の英雄と言われるモモン殿で良いのかな」
「あぁ、私はアダマンタイト級冒険者のモモンだ。こちらで…そうか、そこの倉庫に囚われている市民を助けに来たのだ…な!」
俺が彼に話しかけるのを待っていたのだろうか。瓦礫の中から赤い何か──早すぎて『何か』としか言いようがない──が飛び出て、彼に突撃していた。しかし油断なくそれを彼は打ち返す。構える事無く、まるでハエでも追い払うように無造作に。
打ち払われ、空中に舞った瞬間にそれがシャルティア・ブラッドフォールンであることをやっと頭が認識してくれる。しかも俺が恐怖に取り付かれてしまった奴の本性の方の姿だった。
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/4
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク