第五話「とある一日。三好夏凜」
薄暗い廊下。
静寂に包まれたこの空間に一人、歩みを進めている者がいる。
無言のままその者は目的の場所へ赴くと、開けた場所へと出た。
たくさんの小さな石碑がある。
石碑の道を一つ過ぎれば一息立ち止まり、進む。石碑を一つ過ぎれば目を伏せまた立ち止まる。
それには名が刻まれている。志半ばで散っていった『勇敢なる者』たちの名だ。
毎日必ずここに訪れては時間をかけて一つ一つ石碑の前に立ち、黙祷する。
その者はやがてとある石碑の前に到達した。
その者が始まり、そして終わりに辿りついた過程で出会った人物の名が刻まれている。
大切な存在だった。守りたい存在だった。そして——その最期に立ち会いたかった。
かつての記憶を辿り、自身の不甲斐なさを悔やんだ。
無情にも過ぎた時間はあまりにも大きく、取り返しのつかないものばかりだ。
この場に赴き、その都度内に秘めた『決意』を奮い立たせる。
指先を刻まれている名に這わせ、その名を呟くように口にする。
『 』
時間は待ってはくれない。
◇
三好夏凜は不思議に思っていた。
ここ最近現れたとある人物のことに関して、である。
東郷や乃木のかつての戦友に瓜二つである『彼』は、夏凜の所属している『勇者部』に招かれた。
表向きではボランティア活動を主にしているが、有事の際はその部の名の通り『勇者』として四国を守るお役目がある『勇者部』。
バーテックスは先の戦いにより殲滅。現状は平穏になりつつあるが未だ戦いは終わっていない。
世界を救う。
これが『勇者』に課せられた使命であり、成さねばならぬ『目的』だ。
そう、『目的』である。
経緯や過程はともかく、この部に関しては意味があるのだ。一介の学生、ひいては一般人が気まぐれで入部する、あるいはさせることなどありえないのだ。
——いや、部員の性格からすれば入部させてしまう可能性はあるのだが、しかし引っかかる部分がある。
なぜ、このタイミングで接触してきたのか。
眉を顰め夏凜は目の前で部員——乃木と樹に話す件の『彼』に視線を向ける。
「お~! 可愛いわんちゃんだねイっつん」
「ですよね! 写真撮って待ち受けにしてるんですよ。カミキさん、クロちゃんは元気ですか?」
「元気に走り回ってる。中々やんちゃなやつだな」
「近いうちに会いに行ってもいいですか?」
「もちろん。言ってくれればいつでも」
「はいっ! ありがとうございます!」
「なぬ!? かみきんわたしも行きたい~!」
「歓迎するよ」
などと、日は浅いが勇者部面々とは良好な関係を築き上げているようだ。
ちなみに残りの面子は別行動でこの部室には居ない。
——よく聞けば園子はいつの間にやら呼び方が変わっているし、樹に関しては彼の自宅に遊びにいくようになっているのが気になった。
姉である風はこの様子に思うところはないのだろうか、と考えるがこちらもそういえばいつからか様子がおかしい傾向にあった気がする。
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