3日目 -夕空- (後編)
博麗神社へ行くと、既に妖怪たちが屋台を片付け始めていた。俺の姿を見るや否や、霊夢が駆け寄ってきた。
「おっそーい!もうみんな始めてるわよ!」
「あ、うん。ごめん。」
「どうしたの?妖夢となんかあったの?」
「…別に。」
「ふーん…まぁいいわ。とりあえず片付け手伝って。」
頭が真っ白のまま、俺は片付けを手伝った。ここにいられるのもあと数時間、か。
結局さよならも言えずに帰るのかと思うと、胸が締め付けられた。
空が夕陽色に染まる頃、神社の境内はすっかり片付いていた。妖怪たちは、俺と霊夢にお礼を伝えて帰っていった。
「ようやく終わったわね。二、三日手伝ってくれてありがとう〇〇。」
「うん。」
「あとあんたに伝えるの忘れてたけど、今日は結界開かないから。」
「…え?」
「とにかく、今日は結界が開かない日なの。白玉楼の住人にもそれは伝えてあるから、今晩はこっちに泊まりなさい。明日の早朝に貴方が来たら開けとく。」
「あ、ああ…わかった。じゃあな。」
「制限時間も伸びたんだから、しっかりあのダメ剣士に自分の気持ちを伝えなさいよ。あいつバカだから、あんたが口に出さないと、きっと分からないわ。」
俺は黙って頷き、全速力で白玉楼へ戻った。
冷たい風が強く吹き付けてくる。
ふと横を見ると、夕日が西の空に沈むところだった。その眩しさに思わず閉じた目から、何か熱いものがこぼれ落ちる感覚がした。
「妖夢…」
自然と俺の口から、彼女の名前が溢れた。
思えば瞬きのように長く、永遠のように長く感じた日々であった。いっそこのまま留まってしまおうか、そんな考えが何度となくよぎった。だが出来ない。それは許されない。
所詮…許されぬ恋だったのだ。
無限階段に沿って飛び続ける。
なぜかいつもより長く感じる。
ふと白玉楼の門の前に、誰かが座っているのが見えた。
妖夢さんに紛れもなかった。
俺が側に降り立つと、ゆっくりと顔を上げた。
「〇〇さん…」
目は真っ赤にはれていた。
ずっと泣いていたのだろう。
「今晩は、ここに泊まることになりました。」
「…そうですか。」
そう言って彼女は再び視線を落とした。
「早く戻らなきゃ、幽々子さんに心配かけてしまいますし。…それに、少しでも長く、あなたと一緒にいたいですし。」
「はい…そうですね、私もです。」
無理して笑う彼女の顔を見ると、俺は一層辛く、悲しい気持ちになった。
「私、あれから色々考えたんですけど…やっぱり私たちは、一緒には暮らせませんよね…私たちは住んでいる世界も違いますし。私には私の、〇〇さんには〇〇さんの日常がありますから…」
「…。」
「あと…今晩の夕食ですけど…ごめんなさい。私、買い出しに行けなくて…」
「いいんですよ。気にしないでください。」
「…〇〇さんは、本当に優しい方ですね。」
玄関に上がると幽々子さんが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。話は霊夢から聞いたわ。」
「ええ、すみません。急になってしまって。」
「いいのよ。気にしないで。」
その後自室に戻った俺は部屋を片付け、荷造りを整えた。明日は起きたらすぐにここを出なければならない。その後、夕食までまだ少し時間があったので、俺は「最後の仕事」に取り掛かった。
その日の夕食は、一昨日と同じような和食だった。食事を取る前に、俺は二人に挨拶した。
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