10話 両棲類人って全然両棲類じゃないらしいよ
「ところでよ、菖蒲」
「何?」
「羌子の兄貴とはどうなってるんだ?」
時期は未だ夏休み。だが進学校たる新彼方高校には、登校日というものが存在する。獄楽が皐月に質問を飛ばしたのも、そんな日のうちの一日であった。
「どうにもなってないわ。電話はかかってくるけど大抵他の子が取るし、そしたら適当に理由つけて取り次がないようにしてもらってるし、たまに喋っても緊張してるみたいで碌に話せないし」
「って事はどうにもなんねえかー。なんかちょっとカワイソーかもな」
「いや、そう簡単にも行かないかもしれないのよね」
「何でだ?」
「施設の子が『ねーちゃん彼氏できたんだろー』とか『姉さんの彼氏って優しい人なんだね』とか言って来るのよ」
「んあ? どーゆーこった? 付き合ってねーんだろ?」
「どうも他の子に繋がるのを逆手に取って、外堀から埋めようとしてるみたい」
「将を射んと欲すれば、ってヤツか。しっかし意外だな、そーゆー搦め手使えるタイプにゃ見えなかったが」
「私も同感。だから入れ知恵してるのがいると思ったんだけど……その辺どうなの羌子?」
話題が話題なので入りづらく、結果的に壁の花になっていた名楽に皐月が水を向ける。名楽は顎に指を当て、少し考え込むと微妙に嫌な事を思い出すかのように答えた。
「…………そりゃ多分お袋の入れ知恵だな」
「お母様の?」
「羌ちゃんのお母さんって……生きてたの!?」
「誰も死んだなんて言ってねーぞ姫」
「ご、ごめん。でもお母さんの話を全然聞かなかったから、てっきり……」
「まー家にいないのは事実だからな。離婚したとかじゃないが、この十年親らしいコトなんぞしてくれた覚えがない」
「随分奔放な方みたいだけど……そのお母様が入れ知恵してるって事?」
「消去法だけどな。親父も他の兄貴たちも恋愛にゃ疎いし、あの兄の友人どもも右に同じだ。女友達なんて高尚なモンがいるわきゃないし、となるとそういうコト教えられるのはお袋くらいって話になる」
「羌子さんのお母様ですか……どのような方なのですか?」
恋愛はよく分からないので黙って話を聞いていたサスサススールが、名楽母には興味を覚えたのか入って来た。
「そーだな、キョーコそっくりだぜ」
「誰がじゃ!」
「顔も性格もそっくりじゃねーか。あ、でもお袋さん糸目じゃねーな」
「つまり斜に構えてて向上心があり頭が良くて体力がないと」
「お前さん私をそんな風に思ってたんかい」
「同属嫌悪、というものですか?」
「同属じゃないよ、ワタシぁあんなに享楽的で無責任じゃあない」
「そうやって否定する辺りそれっぽいけどな」
「やかましい!」
珍しく感情的になっている辺り、意識的にしろ無意識的にしろ自覚はあると思われる。なお容姿も含めて、かなり似ているのは事実である。
「ってかお袋の話は今はいいだろ」
「結構面白そうだから聞いてみたいんだけど」
「却下だ却下。それより兄ちゃんだよ、実際どうなんだ? 菖蒲は外堀埋まったからどうこうってタマじゃないだろうケド、迷惑になってない?」
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