13話 元日は一月一日で、元旦はその日の朝の事なんだって
「今度流鏑馬やるんだけど、皆で見に来ない?」
年の暮れも押し迫る、初雪が降ろうとしている冬。長期休暇も目前なとある一日の朝、君原がそんな提案をした。
「流鏑馬? こないだ見学に行ったよね?」
「実はね、たまちゃんの神社でやるコトになって――」
本来は君原の師がやるところであったのだが、彼女が骨折してしまったため君原にお鉢が回って来たのだ。当初は辞退していたのだが、報酬につられてやる事にしたのである。
「委員長の神社かあ……そういえば行った事ないわねえ」
「いいんじゃねえか? いつやるんだ?」
「新年祭だから元日だよ」
「なら行けるな」
「私も大丈夫です」
「右に同じく」
「以下同文」
そういう事になった。
◆ ◆ ◆ ◆
「あけおめー」
「あけましておめでとう」
「おめでとー」
「おめでとう」
新年一日目。初詣で人がごった返す御魂神社の鳥居前にて、四人が集まっていた。皐月、獄楽、名楽は私服だが、君原だけは流鏑馬用の巫女装束だ。
『あけましておめでとうございます。行けなくてすみません……』
「急な仕事なら仕方ないよ!」
スマホの中の蛇に、馬が元気よく言葉を返している。サスサススールだけは、急な仕事が入ってしまったためこの場にはいないのだ。
『――――はい、分かりました。すみません、呼ばれてしまったので、また』
またねと言葉を交わし合い、画面が暗転する。鳥居の外まで伸びる行列に並んでいると、皐月が君原に声をかけた。
「ところで姫」
「なあにあやちゃん?」
「この間聞きそびれてたんだけどさ、流鏑馬の弓と弓道の弓、何で微妙に形が違うの?」
弓道の弓はいわゆる和弓で、中央の若干下が持ち手になっているタイプだ。しかし流鏑馬の弓は、素材こそ和弓と同じであるものの、中央が持ち手になっているのだ。和弓にもそういった種類のものは一応存在するが、本来流鏑馬では使わない。実際、皐月の『記憶』の中の流鏑馬は、普通の和弓を使っていた。
また大きさそのものも、2mを超える和弓に比してかなり小さい。大体だが1m強といったところであろう。
「えっとね、流鏑馬の弓は、昔の人馬武士にあやかったんだって」
「というと?」
「人馬武士は、弓道の弓よりも小さくて強い弓を使ってたみたい」
「小さくて強い弓……複合弓とか合成弓?」
複合弓とは、複数の材料を張り合わせて、射程と破壊力を向上させた弓だ。その中でも、木や竹の弓に動物の骨や腱、鉄や銅の金属板等を張り合わせた弓を合成弓と言う。合成弓は小さくて強力だが、その分使いこなすのが難しい。ただし馬上だと取り回しの良い弓が好まれるため、騎射なら世界的にはこちらがメジャーだ。
「あんまり詳しくないけど、弓の材料が昔とは変わってるって聞いたから、多分そうだと思う」
「合成弓は作るの大変らしいし、変わるのも仕方ないわね……。材料が変わっても、弓の形そのものは変わらずに今に至る、って事かしら」
「おかーさんは伝統だって言ってた」
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