ハーメルン
【完結】四肢人類の悩み
14話 妹、来たる

「倒れたと聞きましたが、身体は大丈夫なのですか?」

 うにょんと伸びる蛇の頭が、皐月の顔を覗き込む。表情筋のない顔ながら、どことなく心配そうな雰囲気だ。

「大丈夫よ、元々どこも悪くなかったんだし……」

「オメーの大丈夫は信用できねーんだよ」

「いや本当に大丈夫だから」

 君原は後ろから心配そうな顔で見ているが、忠告を覚えているようで口を開く様子はない。それに代わり、結局病院には戻らず、皐月は先に帰ったとだけ聞いていた名楽が、若干心配そうに尋ねた。

「あの後どうなったの?」 

「施設長が迎えに来たから、そのまま車で戻ったわ。その後委員長とそのお父様が、菓子折り持ってお礼に来たわね」

「御魂さんのお父様ですか……どのような方でしたか?」

「40代半ばの長耳人だったけど、子供と顔はあんまり似てなかったわねえ」

 彼が絵を描いているという事はその時初めて知ったのだが、同時に売れてなさそうだなという印象も持ったものだ。ついでに善良そうだけど頼りなさそうとも思ったのだが、さすがに両方口にはしなかった。

 ちなみに事実として絵は売れていない。売れていないので契約社員として働いている。週に半分くらいしか働いてないので収入は少なく、末娘の補助金頼りな面が少なからずある。なのでその事について長女、つまり御魂真奈美に度々苦言を呈されている。とは言えその程度でどうにかなるようなら、売れない画家などやっていないだろうが。

 ともかくそういう複雑な、御魂の友人曰く『メロドラマ』じみた家庭事情であるのだ。尤も皐月は深入りする気はないので、そこまで踏み込んだことは聞いていない。

「母親似なんだろ」

「オイ希……」

「ああワリーワリー」

 御魂の家庭事情を知っている名楽が、獄楽に軽く肘打ちを入れる。その微妙な空気を入れかえるように、君原が口を開いた。

「それにしてもスーちゃんの妹かあ。どんな子なんだろ」

 空港の雑踏を背景に、まだ見ぬ南極人に想いを馳せる。新年早々空港に来ているのは、サスサススールの()を迎えるためなのだ。

「先に言っておきますが、かなーり変わった子ですよ。南極人から見ても日本人から見ても」

「想像つかないなー」

 なお南極人はほぼ全員が姉妹だが、ここで言う妹とはそういう意味ではない。成長過程で、特に世話をする者される者の関係を、姉妹という訳語に当てはめているのだ。なので部活の先輩後輩だとか、育ての親子とでも言った方が近いかもしれない。

「前にメールでの写真は見たけど……その時はアフリカにいたんだっけ?」

「そうです。難民キャンプにいたと聞きました」

「難民キャンプから日本て……。ん? ひょっとして元日の『急な仕事』って、妹さん絡み?」

「ええ、急にこちらに来ると言い出しまして……その調整でどうしても外せませんでした」

「なんというか大変そうだね」

「ありとあらゆる騒動を巻き起こしてくれた子ですから」

「そこだけ聞くと、キョーコのお袋さんにちょっと似てるな」

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