16話 変態と子供は、混ぜるな危険だったんだね
「こんにちはー!」
「おねえちゃんだれー?」
「あやしいひとー?」
「あやしい人じゃないよ、やらしい人だよー?」
「自分で言ってちゃ世話ないわ」
座り込んで子供と目線を合わせていた愛宕の頭を、皐月が後ろから鷲掴みにする。そのままクレーンゲームのように持ち上げ、子供達から隔離した。
「ちょ、ちょっと放してあやっち! 天国が目の前に!」
「これ以上喋ったら物理的に天国送りにするわよ」
その場合、むしろ行くのは天国ではなく地獄であると思われる。邪淫の罪なので、衆合地獄の悪見処辺りであろうか。
「あ! がんたいのおねーちゃんだ!」
「こんにちはー!」
「はいこんにちは」
「こ、こんにちは……」
三つ子が元気よく、末摘がおずおずと挨拶する。会うのは結構久しぶりだが、どうやら覚えていたようだ。
「委員長……真奈美お姉ちゃんは?」
「いえでおそうじ!」
「私たちはたんけん!」
「本当に間の悪い……」
つまり委員長こと御魂真奈美は一緒ではないという事だ。子供達だけで外出させるのは些か不用心だが、昼日中の街中なら大丈夫だろうという判断なのであろう。
「あっ、ヘビさんたちもこんにちはー!」
「おや、委員長さんのところの……」
「こんにちはー」
角から姿を現したのは、蛇頭の南極人二人だ。サスサススールとニルニスニルニーフの姉妹である。
「あら奇遇ね。今日は二人だけ?」
「ええ、一緒に美術館に――」
サスサススールの目が皐月に向けられ、その台詞が途中で止まる。彼女は吊り下げられている女を見、皐月に視線を戻し、不思議そうに首を傾げた。
「――何事ですか……?」
「この変態の事は気にしないでいいから」
「初めまして! 私はあやっちのルームメイトの愛宕沙紀! あやっちのクラスメイトの南極人だよね!? 名前は確か……ケツアナルホル・サスマタドールさん!」
「ケツァルコアトル・サスサススールです」
「ごめんサスサス、コイツアホなの……」
天を仰いで目を覆う。愛宕はそんな皐月を気に留める事なく、ニルニスニルニーフと挨拶なぞ交わし合っている。頭を吊られたままだが。
彼女は馬鹿ではないし結構機転も利くのだが、いかんせんアホである。おまけに自己の欲望に忠実という事故物件だ。いつ警察に突き出すか、それともいっそ始末するか、皐月は割と真剣に悩んでいる。
「さあ私の胸に飛び込んでおいで! 特にそっちのちっちゃい子!」
「みゅ、みゅう……」
ハングドウーマン愛宕が末摘に向けて両腕を広げるが、得も言われぬ邪気を感じ取ったのか、見上げるその目はちょっと涙目である。それを見た千草が、末摘の前に出た。
「すえちゃん、このおねーちゃんはヘンタイさんみたいだから、近づいちゃダメなのよ」
「変態じゃないよ、仮に変態だったとしても変態という名の淑女だ――――イタァイ!!」
めきょっと、愛宕の頭からしてはいけない音がする。皐月のゴリラパワーが、腐った脳髄を物理的に締め上げたのだ。
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