17話 四方山話の山は、どこから来たのか不思議だよね
「どっちもいないけど、施設に小さい子はそれなりにいるから」
「あっ…………ワリィ」
「別に謝る必要はないけど……」
不思議そうな顔だ。そもそも何故謝られるのか、よく分かっていなさそうである。御牧は自らのみが感じる気まずさを振り払うように、一つ咳払いをした。
「そ、そーいやよ、皐月の小学校の頃ってどんなんだったんだ?」
「小学校? 特に変わんないわよ?」
「いや、変わんねーってこたぁねーだろ。大体どこの小学校だったんだ?」
「県外だから知らないと思うわ」
そのやり取りを聞いて地味に焦ったのは御魂である。彼女は皐月の詳しい事情こそ知らないが、今まで聞いた話から、大体のところは当たりをつけている。そしてそれは概ね正しい。こういう事に頓着しない皐月によって事情が明かされれば、真っ当な神経を持つ御牧は多少なりとも気に病むであろう。ゆえに話を逸らすべく、御魂は御牧に話題を振った。
「ア、アナタは小学校の時からほとんど変わらないわよね」
「そうか? これでも色々成長してると思うんだがな」
無知なる御牧は、気遣いの女御魂によって知らぬ間に地雷を回避した。地雷原にその自覚がない辺り性質が悪い。
「そーゆータマこそ、かなり変わったよな」
「そうね……」
「そうなの? どんなふうに?」
「当時のあだ名が『お人形ちゃん』だった」
「嘘やろ工藤」
「ホンマや工藤」
「いや誰よ工藤」
全く信じていない。衝撃に思わずエセ関西弁になってしまう程である。まあ現在は人形とは程遠いオカンだ、無理もなかろう。
「マジで小学校の頃は、人形みてーな感じだったんだよ。口数もあんま多くなかったし、表情もあんま変わんなかったし」
「想像つかないわねえ……」
「苦労してたかんなあ……」
しみじみと言う御牧。彼女は小学校から御魂と付き合いがあり、色々と相談も受けている。ゆえに、色々と思うところがあったのであろう。
「……ん? その理屈だと、苦労してたのに全く変わってない私はどうなるのかしら」
無自覚系自走式地雷が戻ってきた。焦る御魂が何かを言う前に、御牧が口を開く。
「苦労してたんか?」
「死ぬほどね」
比喩でも何でもないのだが、そんな事は露ほども知らない御牧は笑う。
「なんだそりゃ、大袈裟だな」
「大袈裟だったら良かったんだけどねえ……」
「ホ、ホラ、それより!」
少々わざとらしくも御魂が声を張り上げる。気遣いと苦労の似合う女、御魂真奈美である。オカン系JKは伊達ではない。
「そろそろ時間よ、席に着きなさい!」
「はいはい」
「委員長は二年になっても委員長ねえ」
その時ちょうどチャイムが鳴り、二年生最初のホームルームが始まった。
◆ ◆ ◆ ◆
『自由・民主・平等! 何故我らには、人類の普遍的原理が適用されないのか! このような不正義に対し、我らはやむなく立ち上がったのである!』
放課後のオカルト科学部部室。名楽の持つスマホの長方形の画面には、カエル人間が吠えている様子が映し出されていた。ちなみに言語は、両棲類人のものでも現地のポルトガル語でもなく、英語である。
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