ハーメルン
【完結】四肢人類の悩み
18話 アイドルは元々崇拝対象って意味だから、南極人にはピッタリなのかも

「ここがニルちゃんの所属事務所かあ」

「なんつーか、エライ建物だな」

 いつもの五人が見上げるのは、四階建てのビルである。何の変哲もない……と言いたいところだが、獄楽の言う通り変哲のあり過ぎる建物だ。

 最上階に『リリスタジオ』という看板がかかっている、それはいい。が、その下の三階には『大惨寺』、二階には『大惨神社』という看板が出ている。

 何でビルに寺と神社が入っているんだとか、同じ名前なのは神仏習合の名残なのかとか、そもそも何故寺と神社の上に芸能事務所を入れてしまったのかとか、どこから突っ込んでいいのか分からぬ有様である。

「あの子がアイドル……心配です」

「上司のファルシュシュさんの許可は出てる、って言ってたじゃない」

「それは、そうですが…………心配です」

「姉は大変だぁね」

 そんなカオスなビルに来たのは、サスサススールの妹、ニルニスニルニーフがアイドルになると言い出したからである。任務も命令もなく、ぶらぶらしているところをスカウトされたとの事だ。そんな妹に不安いっぱいの姉は、それでも実質的ニート脱出を見守るべく、友人と共にその事務所を見学に来たという訳である。

「アイドル……枕…………生殖能力……というか、穴はあるのかしら……?」

 小声で皐月が呟く。初手で芸能界の暗黒面を連想する辺り、性格が透けて見える。

 それはそれとして、一般的南極人に生殖能力があるのかどうかは確かに気になるところだ。これがミツバチなら、女王が抑制しているだけなので働きバチにも生殖能力はある。だが南極人は、肉体をかなり直接的にいじれる技術を持っているようなのだ。それを用いて、一般的南極人から生殖能力をオミットしている可能性はある。

 これにはメリットもデメリットもある。デメリットは、女王に何かあった場合の予備が少なくなる、という点だ。その危険性は言うまでもない。

 逆にメリットは、生殖に使うはずのエネルギーを他に回せる、という点である。有名どころで例を挙げるならば、染色体を通常の二対ではなく三対持つ、三倍体であろう。生殖能力はないが、性成熟のためのエネルギーを成長に回せるため、巨大かつ長寿になる。三倍体のニジマスの中には、何と体重20㎏を超えるものすら存在したという。

 これと同じ事が、一般的南極人に起きている可能性は低くない。南極人通常種は、総じて高い知能を持つからである。7ケタの掛け算を一瞬で計算し、外国語を母国語と同等以上に使いこなし、一部では哺乳類人を超えた技術をも有している。分野によっては明らかに哺乳類人以上のその頭脳は、生殖能力と引き換えだとしてもおかしくはない。

 とはいえ、何らかの証拠や証明がある訳ではない。今現在、南極人の生殖について確かなのは、卵生でありその卵は女王のみが産む、という事だけだ。ゆえに、一般的南極人の生殖能力の真相は藪の……いや、蛇の卵の中である。

「おい、何アホな事言ってんだ。行くぞ」

「ごめんごめん」

 聞こえていたらしい獄楽に促され、皐月は皆と共にビルの中へと入って行った。



◆ ◆ ◆ ◆



「おー」

「うめーな」

「上手いね」

「ニルちゃん上手ー」


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