03話 子供のあのパワーはどこからくるんだろう
「暑い……」
日曜日は初夏の昼下がり。季節外れに気温が上がり、気怠さと不快指数が鰻登りの陽光の下、皐月は街を歩いていた。
「暑い……」
髪の毛が黒いので余計に暑い。ポニーテールに纏めているが、結構長いのもマイナスポイントである。かと言って切ると、何故か判で押したように『振られたの?』と聞かれるので、それが鬱陶しい皐月は短くしようとは思わなかった。
「暑い……」
全身から汗が噴き出しているが、最も酷いのは眼帯の裏だ。黒いせいで熱を吸収して熱いし、通気性もお世辞にも良いとは言えないため、蒸れるを通り越して濡れている。かといって外す訳にも行かない。仮にも女子だ、傷痕を晒して街を歩く気にはなれなかった。
「暑い……」
さっきから念仏じみて同じ事しか言っていないが、それも無理はない。一ヶ月は早い夏日は30℃を超え、しかも前日に雨が降ったため湿度まで高い。そんな日に外を歩けば、そりゃあ暑いとしか言えなくなるだろう。
「暑……ん?」
都合13回目の繰り返しになるかと思われたその言葉は、彼女の一つきりの瞳が見知った人影を捉えた事で中断された。
「あれは……」
公園のベンチに座る人馬と翼人。そしてその間には、小さな長耳人が三人に、同じく小さな人馬が一人。小さい方は知らないが、大きい方が誰なのかはよく知っている。皐月は彼女らに近づき言葉をかけた。
「委員長に姫? こんなところで奇遇ね」
片方は君原姫乃、もう片方は委員長こと御魂真奈美だ。白に近い薄い灰色の長髪に、アクアマリンのような青色の瞳を持った翼人である。目鼻立ちはモデルのように整っており、強い意志を感じさせる僅かなツリ目がそれを引き締めていた。
「あやちゃん?」
「あら、皐月さんじゃない。今日は奇遇が続くわね」
その言葉に一瞬何の事かと思ったが、どうやら二人は示し合わせて会っていた訳ではないようだと思い至る。まあ会うんなら子連れはない。彼女らの出会いもまた偶然だったのだろう。
「この子たちは? 妹さん?」
「私はそうだけど、君原さんの方はいとこだそうよ」
「「「こんにちはー!」」」
「はいこんにちは」
頭の上に獣のような耳をつけ、長い尻尾が装備されている三人の女の子たちが、声を揃えて挨拶してくる。同じ顔に同じ髪色、同じ服。どこからどう見ても三つ子であった。
「そっちは……人見知り?」
右に振られた皐月の頭が、小さな人馬に向けられる。しかしその小さな彼女は、君原の腕に捕まり、少々怖そうに皐月を見上げていた。
「ふみゅぅ……」
「ごめんねあやちゃん。ほらしのちゃん、怖くないよー。お姉ちゃんのお友達だよー」
「怖い……」
「私そんなに怖いかしら」
「目が怖いの……」
その言葉を最後に、しのちゃんと呼ばれた子は君原に強く抱き着いて固まった。君原が宥めてもすかしても全く動く気配がない。御魂が思わずといった風情で、皐月を見上げて声を漏らした。
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