04話 人魚は魚類じゃなくて哺乳類です
「どこ見てんだアホ」
「でも確かにそうね、目もぱっちりしてる美形ばかりだわ」
人魚の女子は皆美少女と言って差し支えない造形だし、男子も線は細いがイケメンばかりだ。アイドル事務所やジャニーズにスカウトされそうな顔、と言えば少しは分かりやすいだろうか。数は少ないが陸地で暮らす人魚は、実際にそういったところで働いている事もある。ダンスは無理だが、歌が非常に上手いので、需要は存在するのだ。
そんなのが皆水着な訳だから、健全な男子高校生としては鼻の下も伸びるというものだろう。しかも全員紐パンである。脚の形状的に他のは履けないので仕方ないのだが。ウェットスーツなら着る事も出来ようが、この暑さでは熱中症不可避である。
「おっ、分かるか皐月。つか何か意外だな、お前でもそういう事に興味あるんだな」
「そこはかとなくいかがわしい言い方は止めて頂戴。というか小守君、私を何だと思ってたの」
残っている左目だけが動き小守を捉える。その死んだ目に見つめられた彼は、少々うろたえた様子で、口早に言い訳ともつかない言葉を吐き出した。
「い、いや、なんつーかよぉ、皐月はそういう事に興味なさそうっつーか、超然? みたいな感じだったからよぉ」
「まあ恋愛に興味ないのは事実だけど」
正確には、『人間』ではない相手にそんな気になれないだけである。それでも角や尻尾程度ならまだ無視も出来なくはないが、人馬ともなると完全に駄目だ。
この世界の馬は六本脚だが、彼女にしてみれば四本脚こそが馬。つまり彼女からすると、人馬は下半身が完全無欠に馬なのだ。『船の中にヤギを繋いで航海した』という大航海時代の如き趣味は皐月には無い。
「別に性欲がない訳じゃないし」
喋りながら小守に近づき、見上げる位置にあるその顎に、右手の人差し指の腹を当ててつつとなぞり上げる。
「そういう気分になる時だって、あるのよ?」
「おっ、おう」
口角を上げて笑みを作り、目を細めて流し目を送る。右目が眼帯に覆われ、残る左目が死んでいてもそれでも彼女は美人である。効果は抜群だ。
小守は顔を赤くしてドギマギし、ものも言えぬ程の挙動不審に陥っている。筋骨隆々の偉丈夫がそうなってる姿は、ぶっちゃけ割とアレであった。
「ククッ、ウブねえ」
「おい菖蒲、あんまからかってやんなよ。コイツ単純なんだからよ」
「どっ、どういう意味だオメェ!」
「そういう意味だよ、サルみてーな真っ赤な顔で何言ってんだ」
「誰がサルだ!」
「少しは落ち着きなさいよ、本当に猿みたいよ?」
「お前が言うな!」
「オメーが言うな」
期せず息を合わせたツッコミに、隣を泳いでいた人魚がプッと噴き出した。
「あはは、山人っていつも漫才してるんだね」
「いや違うから」
「そうそう、いつも漫才してるのはこの二人くらいのものよ」
「さらっとデマを飛ばすのは止めろよオイ」
「299点……198点……」
ぼそりと呟かれた点数に、二人の顔が引きつる。まあ確かに漫才のような点数である。仮に試験勉強をせずとも、この点数を取るのは逆に難しいであろう。
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